ここでは微弱な原子・分子の吸収線を検出するためのさまざまな高感度レーザー吸収分光法の原理,実現方法および応用例を示す.

28・3・1 周波数変調(FM)分光

吸収分光においては試料に光を入射し,その透過光の強度変化から吸収を測定する.いま,吸収係数α,長さLの試料に強度I0,周波数ω/2πの光を入射した場合,その透過光の強度Iは,

式28・1

と与えられる.試料の吸収による透過光強度の変化分ΔI=I-I0が入射光の強度ゆらぎδINより大きければ,これを検出することができるため,吸収信号の検出限界は,

式28・2

より与えられる.一方,入射光の強度ゆらぎはショット雑音(量子雑音)によってその限界が与えられ,その大きさは入射光のパワーをP0,検出帯域幅をBWとすると,

式28・3

と与えられる.このショット雑音によって吸収分光における理論的な検出限界が与えられる.典型的な条件(λ=0.75 μm,ω/2π=4×1014 Hz,P0=1 mW,BW=1 Hz)においてこの検出限界を求めると,αL=ΔI/I~2×10-8に達する.しかし実際のレーザーにおいては出力光の強度雑音は低周波数ではこのショット雑音よりもはるかに大きく,これは高周波になるほど小さくなり,数MHz以上でショット雑音限界に近い値に達する.このため,吸収分光においてはレーザー光を高い周波数で周波数(位相)変調して,この変調周波数で信号を検出する周波数変調(FM:frequency modulation)法がよく用いられ54),これによってショット雑音限界に近い高い検出感度が得られる55)

周波数変調分光法では図28・5に示すように,周波数ω/2π のレーザー光を周波数ωm/2πで周波数(位相)変調をおこなってサイドバンドを発生させ,これを試料に入射して,その透過光を変調周波数で復調することにより試料の吸収または分散信号を得る54).透過光の強度は,

式28・4

と表される.δ(ω)=α(ω)L,φ(ω)=n(ω)ωL/cは試料の吸収および伎相シフトをそれぞれ表す.またMは周波数(位相)変調の変調指数を表し,ここではM<<lと仮定した.これよりcosωmt成分は試料の吸収に,sinωmt成分は分散に比例した信号を与える.

図28・5

このFM分光法を用いて得られる検出感度は検出帯域幅1 Hzでほぼショット雑音限界で決まるδI/I~10-7が得られている54).これ以上高い検出感度を得るには,光パワーを上げてショット雑音限界を下げればよいが,実際にはレーザー光の周波数変調の際に発生する残留強度変調の影響や56),迷光や残留反射光による干渉効果によって検出感度が制限される.

28・3・2 長光路吸収セル

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