光の増幅・発振ができる物質の状態,すなわち反転分布状態を実現するには,どのような方法があるかについて概括的に述べる.主として用いられるのは,気体レーザーでは放電励起,固体および液体レーザーでは光励起(光ポンピング),半導体レーザーではキャリヤ注入励起である.個々のレーザーでの詳細についてはIV編に詳しい説明がある.

表4・1に,主な励起方法,反転分布生成に寄与する主な過程および代表的なレーザーの例を示す.

表4・1

4・1・1 放電励起1)~3)

放電による気体レーザーで,非常に多数の発振線がある.反転分布を実現するための励起機構は,気体の中性原子励起準位,イオン励起準位,分子励起準位により異なるので,以下,分類して述べる.

[1] 中性原子

(a) 電子との衝突による励起単一原子気体で放電が起こると,電子と原子との非弾性衝突によって,基底状態の原子はその原子特有の多くのエネルギー準位に励起されるが,その準位の特性によって励起確率が大きく異なる.基底準位に対して光学的に結ばれ(許容遷移(alowed transition))ている準位には,電子衝突による励起確率が高いが,光学的に禁止され(禁制遷移(forbidden transition))ている準位には,電子衝突による励起確率がずっと低くなる.

図4・1(a)で,E0を基底準位,E1,E2を励起準位とし,E0⇔E1は禁制遷移,E0⇔E2は許容遷移とする.

図4・1

E2へは電子衝突により励起されやすく,また,この準位から基底準位への自然放出光(共鳴放射)は共鳴吸収を受けて基底準位の原子をE2に励起するので,E2準位の寿命は実質的に長くなる.この現象は放射の共鳴捕獲または共鳴トラッピング(resonance trapping)と呼ばれている.一方,下準位E1への電子衝突による励起確率は低いので,E2-E1準位間で反転分布を生じ,しかもこの両準位間は計二容遷移になるので,レーザー発振が始まる.しかし,E1からE0への脱励起は非放射(管壁,電子,原子との衝突)によるので,E2からE1への遷移速度にくらべて遅く,短時間で反転分布が消滅する.すなわち,この場合には本質的にパルス発振しかできない.しかし,図(b)のように,下準位E1より低い準位E’1があり,E1の原子が速やかに,E’1に緩和できるとき,E2-E1準位間の反転分布状態が連続的に保たれ,連続発振が実現される.

このような過程によって発振するレーザー線は,希ガスのNe,Ar,Kr,Xeで多く,合計300本以上,特にNe線が多い.また,金属蒸気ではパルス動作の,Cu 511,578 nmが実用され,Au,Pbなど発振線が多い(XI編付録,付図「気体・液体・固体レーザー波長領域」参照).

(b) 混合気体原子との衝突による励起移行 図4・2に示すHe-Neレーザーの例では,Heを混合気体として,Neの数倍の分圧で封入される.放電が起こると,上述のように各原子は電子との衝突で励起されるが,励起原子と異種原子との衝突も起こる.図において,寿命の長い準安定準位21Sおよび23Sへ励起されたHe原子(HeM)が,基底準位のNeと衝突して,

式4・1

の過程で,それぞれほとんど同じエネルギー高さにあるNe励起準位(Ne*)の3sおよび2s準位へ励起し,HeMは基底状態へ戻る.この過程は励起移行と呼ばれ,両原子の励起準位間のエネルギー差ΔEが小さいほど確率は高く,特に0.1eV以下では共鳴的になる.He原子数は多いので,逆過程の確率は低い.したがって,Neの3s,2sの準位は選択的に励起され,3p,2p準位との間に反転分布が生じる.このレーザーの多様性をあげる.

図4・2

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