多重波長励起(multi wavelength excitation)とは
複数の波長を物質に照射することによって各波長成分をカップリングし,電子励起や光解離をおこなうことを多重波長励起あるいは単に多重励起という.たとえば石英ガラスの場合,まずバンドギャップ(9 eV)より大きい光子エネルギーの光によって,価電子帯から伝導帯への電子励起をおこなう.続いて電子親和力(0.9 eV)より大きい光子エネルギーの光によって,励起された電子を真空準的に引き上げ,イオン化をおこなう.この過程を用いてアブレーンョンなどのプロセスをおこなうと,非常に高性能で効率的な加工が実現できる.通常の単一波長アブレーションで石英ガラスの高性能アブレーションをおこなおうとすると,真空紫外域の高強度レーザー光が必要となるが,現状ではむずかしい.一方,多重励起プロセスでは伝導帯への電子励起のみ真空紫外光でおこなうため,そのエネルギーはアブレーンョンしきい値より1桁程度小さくてよい.電子励起後は,アブレーンョンに必要なレーザー光の波長が紫外域や可視域でよくなるため,容易に高強度のレーザー光を利用することができる.したがって加工性能的には真空紫外レーザー光のみを用いた場合と同程度のものが得られるうえ,効率的にも非常に有利である.