レーザー誘起過渡2色性(laser-induced transient dichroism)とは
溶液やアモルファス固体などの等方的な試料の光吸収強度は,入射光の偏光方向に依存しない.しかし直線偏光を等方的な試料に入射すると,その偏光方向に遷移モーメントを持つ分子が選択的に励起されるので,生成した励起状態分子や残った基底状態分子の分布は等方的でなくなるそのため,最初に照射したポンプ光の偏光方向と平行および垂直な偏光成分を持つプローブ光に対しては,吸収強度に差(=2色性)が生じることになる.通常,このような2色性は,回転拡散や基底状態への失活といった,ピコ秒からナノ秒スケールの迅速な緩和過程により消失するので,過渡2色性(transient dichroism)と呼ばれる.これらの2色性の消失時間よりも時間幅の短いピコ秒やフェムト秒のパルスレーザーを用いると,このような過渡2色性を持つ状態を効率良く生成できる.