カー非線形性(Kerr nonlinearity)とは
強い光電界E(x,y,z,t)が煤質中に伝搬すると,3次非線形過程である光カー効果によリ光強度に依存した屈折率変化n=n0+n2<E2>が生じる.n2は2次の非線形屈折率,n0は線形屈折率である.ガラスなど固体のカー効果は電子分極によるため,n2の値は小さいが,その応答時間(τr<数fs),はレーザー光のパルス幅tpにくらべて十分高速である.このため,上式が成立する.逆にτr>tpのときには光強度の時間積分に比例した屈折率変化をする.このとき,n2は一般に大きな値をとりうる.たとえば,配向緩和が支配的である液体CS2の場合,τr=2 ps,n2はガラスより約2桁大きい.さらに高速非線形のβーカロチンとともに,これらはピコ~フェムト秒パルス測定用光カーンシャッター3次相関計に応用されている.また,カー媒質を伝搬したパルスは自己位相変調を受けるため,パルス内の周波数は時間に比例して増大する(これをチャーピングと呼ぶ).光強度が高いとき,著しいスペクトル広がりを起こす.この効果を利用して,もとのパルス幅から1桁以上圧縮することができる.ガウシアン分布を持つビームがカー媒質を通ると,その中心部の肌折率が高く周辺に向かって減少するため,カーレンズ(凸レンズ)が形成されビームは自己収束される.この作用とスリットの組合せにより高速光スイッチングとしての機能が得られるため,フェムト秒モード同期固体レーザーに応用されている.→全光スイッチ