X線CT(X-ray computed tomography)とは
現在,X線CTは医療診断,予防の分野に広く利用されている.これは,X線が一般に物質によってほとんど散乱されることなし主として物質の原子番号に依存して吸収されることを利用したものである.このように,吸収が散乱に比して桁違いに大きいとき,吸収のみによるLambert-Beer則(L-B則)が成立し,吸収に関して,いわゆる投影データが得られる.投影データからもとの吸収係数の分布を計算処理によって再現するのが,”computed tomography”すなわちCTである.計算処理のアルゴリズムには種々のものが考えられているが,いずれにしても,L-B則を基礎とする投影データに頼っている.ところで,X線CTによって得られる生体情報は主として生体の形態的病変情報である.CTの機能を生体の生理活性情報の取得にまで広げようとすると,可視から近赤外領域の光に対する生体の吸収情報が必要となり.いわゆる光CTの実現が待たれる.ところが,生体は一般に,このような光に対して強度の散乱体であり,X線CTの基礎となっている吸収のみによるL-B則が成立しにくい.そこで,光CTをX線CTのアルゴリズムの援用によって実現しようとすれば,生体組織による散乱の影響を取り除く工夫が必要となってくるが,いずれも十分なものではなく.X線CTのアルゴリズムによる光CT実現は決して容易なものではない.