CO2の増加など温暖化現象をはじめとする環境問題では,微量物質の影響が広く認識されるようになってきている.たとえば,フロン使用により増加したハロゲンや,化石燃料燃焼を基本にしたエネルギー消費で放出される窒素酸化物が,成層圏や対流圏でオゾンの泌度変化に大きく寄与し,温暖化ばかりか人体の健康や生態系への影響までも器具されている.成層圏では,光化学反応から発生したハロゲンやNOから,

式26ページi

といった連鎖反応が進んでオゾンの減少を招く.一方,対流圏では,窒素酸化物と紫外線の光化学反応から局所的にオゾンの増加を招く.これらの反応により,窒素酸化物の大気中波度がppbレベルであっても,連鎖的に進行し環境を大きく変化させるおそれがある121).これら環境雰囲気に含まれる微量物質の濃度変化の測定や,それらの排出源を連続的に監視することは重要な課題であり,環境にかかわる計測・分析では,多種類の成分が混在する中からある物質を特定し,濃度ppm(10-6)からサブppb(10-9)レベルで測定をおこなうのが一般的である122).現在,大気汚染防止法に基づいて大気の監視に用いられている技術は化学発光や吸光光度分析を基本原理とするものや,クロマトグラフを利用するもので,前処理後の測定が多く,必ずしもその場の連続監視には適さない.このような濃度レベルで,より高精度・短時間で連続的に物質定量する技術として,これまでに数々のレーザー分光分析技術が研究されてきている123).レーザー吸収分光法,レーザー光音響分光法,レーザー誘起蛍光法,ラマン散乱法やレーザーブレークダウン発光法などが代表例としてあげられる124)133)

表26・3にこれら測定に用いられる光源と測定方法の特徴を示す.レーザー吸収分光法,光音響分光法とレーザー誘起蛍光法は,微量物質の環境計測で非常に多くの研究がおこなわれており,大気環境中の微量物質測定と監視への応用が盛んに試みられている.これらは,いずれも原子・分子の特徴ある吸収遷移を第一に利用するので広義には,吸収分光技術ともいえる.特にレーザー吸収分光法は,ほかの方法と比較して濃度校正も容易,かつ選択性も十分あるので環境測定用に実用性が高い.この分光分析は,分子の形状や大きさを反映した物理定数をその場測定するので,化学反応を利用して前処理を施す従来の環境分析とは本質的に異なる測定法といえる.レーザー波長・周波数変調による分光や光音響分光法は,28章で解説されるので,ここでは,レーザー吸収分光を主として微量ガスを定量する環境計測技術について概説する.

表26・3

レーザーを光源として微量物質を吸収分光により分析する研究開発は進展が著しいが,利用する吸収遷移の波長で大別できる.第一は,多くの分子が基本振動回転遷移の吸収線を有する2.5 μmから20 μmの中赤外-赤外波長領域である.この領域での分子の吸収線は,吸収強度が大きく分光分析に利用するのに適している.また,0.8~2 μmの近赤外線波長領域では,分子は倍波振動(overtone)吸収線を有する.この領域では,分子の吸収線強度は小さく,基本振動回転遷移の吸収線強度の1/30から1/300となる.一方,紫外線領域から可視領域200~500 nmでは,電子遷移の吸収がある.多くの多原子分子では,振動回転遷移は,赤外領域に固有のものを有する.一般的な大気下での測定では,多原子分子の振動回転遷移は周波数に対して密に存在し互いに重なりもある.2原子,3原子分子と比較するとベンゼンの誘導体やそれらの異性体の振動回転遷移は特に密に存在し互いに重なりも大きく,常温常圧でのはむろんのこと,減圧下で特定の吸収遷移を捕捉して分子を検出し定量するには,レーザー光源の線幅を狭くして周波数分解能を上げる必要がある.

前節で詳細に述べているとおり,レーザーの周波数分解能だけでは,分子を弁別できないような比較的大きな分子量を持つダイオキシンのような分子の場合には,質畳分析手法を組み合わせて分析定量をおこなう.代表的な環境にかかわる分子の排出源と吸収波長を図26・39に示す.

図26・39

26・10・1 環境計測用レーザー分光分析器

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