9・2・1 フォトリフラクティブ効果
フォトリフラクティブ効果(光誘起屈折率効果または光折変効果)とは,光伝導性の電気光学材料に空間的に不均一な光を照射したとき,材料内部で光誘起された電荷が移動し,その結果,電気光学効果により屈折率分布が生じる現象である2).光強度に応じて屈折率が変化するという意味で,3次の非線形光学効果の一種である非線形屈折率効果と同等の現象と考えられる.実際,フォトリフラクティブ効果を用い,縮退4光波混合やそれを用いた位相共役波発生などを起こすことができる.一般に真性の非線形光学効果は強力なレーザー光を必要とするが,フォトリフラクティブ効果は,光誘起され移動した電荷を捕獲し蓄積できるため,強い光を必要としない.このため,小型のレーザー光源を用い,さまざまな非線形光学効果を引き起こすことができる.
フォトリフラクティブ効果は材料内部で電荷の移動を伴うため,発現機構は簡単ではない.バンド輸送モデルに基づく最も基本的なモデルを図9・3に示す3).不純物あるいは欠陥に起因する禁制帯中の深いドナー準位(正孔伝導ではアクセプタ)が電荷のトラップとして働く.これをフォトリフラクティブ中心という.浅いアクセプタはドナーの一部をイオン化し,電荷移動の余地を作るために必要である.入射光は中性のドナーをイオン化し,自由電子を励起する.電子は伝導帯を移動したあと,イオン化ドナーと再結合する.こうして,光強度分布の明の部分から暗の部分へ電荷が移動する.これによって生じた空間電場分布が,電気光学効果を介して屈折率変化を引き起こす.光の強度分布は空間電荷分布として記録される.
フォトリフラクティブ効果の一つの特徴は,光強度分布とそれから発生する屈折率分布が一致しないことにある.これを非局所的応答と呼ぶ.干渉縞を照射すると材料中に屈折率格子が書き込まれるが,両者の間に空間的に位相ずれが生じる.この位相ずれは,結晶の方位によって決まる特定の向きに起こる.フォトリフラクティブ効果を介し,2本のレーザー光を相互作用させることを2光波混合というが,位相ずれがあると,2光波混合において,一方向へエネルギー移動が起こる.エネルギーを奪う光ビームに着目すると,光増幅を受けることになる.実際,レーザー媒質と同様に,光増幅のゲイン係数を定義できる.チタン酸バリウム(後述)など強誘電性酸化物では,増幅ゲイン係数は10~20 cm-1に達し,通常のレーザーを超える大きな値をとる.この光増幅効果の存在が,フォトリフラクティブ材料中の2光波混合や4光波混合を特異なものにする.その一例が,自己励起形位相共役鏡(9・2・3項)の実現である.
9・2・2 フォトリフラクティブ材料
フォトリフラクティブ効果は,ニオブ酸リチウム(LiNbO3)やタンタル酸リチウム(LiTaO3)など強誘電性酸化物で最初に発見された4).その後,広範な材料でこの効果が確認されている.現状では,フォトリフラクティブ材料は強誘電性酸化物,立方晶酸化物,化合物半導体,有機材料に大別される.
強誘電性酸化物材料にはLiNbO3,LiTaO3,チタン酸バリウム5)(BaTiO3),ニオブ酸カリウム6)(KNbO3),ニオブ酸ストロンチウム・バリウム7)(SrxBr1-xNb2O6)などがあげられる.また最近では,ペロブスカイト構造リラクサー材料0.91 Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-0.09 PbTiO3においてフォトリフラクティブ効果が見つかっている8).強誘電体材料は,電気光学係数が大きく,したがって屈折率変化が大きく,高い増幅係数を持つが,反面,応答速度が遅い.実際,比較的高速のBaTiO3で秒のオーダー,LiNbO3では分のオーターである.なお,ニオブ酸タンタル酸カリウムKTa1-xNbxO3はキュリー点が常温近くにある強誘電体材料であるが,キュリー点のすぐ上の常誘電相で使われることが多い9).この場合は,電気光学効果は2次であるので,外部電場を必要とする.このことを用い,外部電場のオン・オフでフォトリフラクティブ効果を制御する試みもある.BaTiO3については,位相共役鏡への応用に着目して詳しく述べる(9・2・3項).また,LiNbO3については,ホログラフイック光メモリへの応用に重点を置いて詳述する(9・2・4項).
立方晶に属していても,中心対称性を欠くものは,1次の電気光学効果を持ち,フォトリフラクティブ特性を示す.実際,シレナイト化合物Bi12SiO20,Bi12GeO20,Bi12TiO20でフォトリフラクティブ効果が確認されている10).この材料は,屈折率変化はあまり大きくないが,強誘電体にくらべて応答速度の速いことが特徴である.また,光学活性(旋光性)であることも知られている.
化合物半導体および有機ポリマー材料については9・2・5および9・2・6で述べる.
9・2・3 チタン酸バリウムとその位相共役鏡への応用
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