【Hargrove らによる見事なパルス列実験】
 同じ 1964 年には Bell 研究所の Hargrove らが図に見るような見事な等間隔スペクトルの発振を He-Ne レーザーで発表しています。同じ 1964 年に He-Ne レーザーによるモードロック実験が複数発表されていますが、ここでは一応、論文投稿の順番に紹介しました。まさに激しい研究競争で研究の先取権の争いが激しいことも勉強になります。世界には必ず自分以外に 3 人の競争者がいます。少しでも研究を怠ると、論文発表の権利を失う、というのが研究だという厳しい教訓を得ることができます。これらの論文はほぼ同時に行なわれており、論文査読の間に、他の研究者が投稿したものも,当然、オリジナルな結果として論文発表されています。それが出版後だと、投稿の権利が失われるのです。
 この研究では He-Ne レーザーの共振器内に溶融水晶の超音波共鳴で屈折率変調を誘起する光音響素子 AOM を使って変調をかける方式が採用されました。溶融水晶 AOM は筆者が 1970 年頃まで Q スイッチ用デバイスとして広く使われていましたが、スイッチング速度が EO スイッチに比べて遅いので、今ではあまり使われていません。ただし、1969 年代には光信号用変調器として有望だと考えられていました。ただし、現在のように GHz 通信の時代になると、出番が少なくなったということでしょう。
 それはともかく、溶融水晶 AOM で共振器往復時間に近い周波数で変調をかけると、図のような等間隔スペクトルでレーザー発振します。これは AOM で変調されたレーザー光が、変調周波数間隔で側帯波を発生し、その側帯波が固定されているので、多モードレーザー発振が周波数ロックされるということだと結論されています。この説明はいわゆる電気信号理論がそのまま当てはまるとして、広く受け入れられました。得られたパルス列を構成するパルスは、パルス幅 2.5ns の対称形状パルスのパルス列であり、パルス間隔は2L/c=17.8ns であることが確認されました。パルス形状が対称形状だとされているのは、He-Ne レーザーは元来、狭帯域レーザーで,利得帯域幅には最大 2-3 本しかモードが存在しないので、少数モード間ビートは正弦波となるからです。モードロック発振といえば、ps、fs というパルス幅を想像するのは、現在の TiS レーザーのような広帯域固体レーザーだけが想像されるからといえるでしょう。

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