LD 励起超短波パルスレーザーとして、大きな可能性を秘めているYb 系レーザー媒質の特性の比較を行い、Yb:YAG 結晶の長所を明らかにする。LD励起高出力超短パルスレーザーにおいて、レーザー媒質には以下の特性が求められる。
- 蛍光寿命が長い
→増幅パルス間隔時に反転分布を多く蓄えることができる。 - 熱伝導率が高い、また熱膨張係数が低く、屈折率の熱変化が少ない。
→高出力レーザーにとって非常に有利。再吸収損失があるYb 系レーザーにとっては、冷却が大変重要であり、熱伝導率は高い必要がある。 - 複屈折、熱複屈折効果が小さい
→Ybレーザー媒質の高効率レーザー発振法である高強度励起では、熱レンズ効果などの熱歪が強くなってしまうため、熱歪が出にくいレーザー媒質が必要となる。よって、レーザー応用においてレーザー光の直線偏光性は小さいことが望ましい。 - 蛍光スペクトル幅が広い
→超短パルス化には縦モードが多くレーザー発振する必要があり、そのためにレーザー媒質の蛍光スペクトル幅が広い必要がある。 - 高濃度イオン添加が可能
Yb系レーザー媒質の特性表
Yb系レーザー媒質におけるこれらの特性を表1 にまとめた。また、表1 には現在までの超短パルスレーザー発振器における実証特性についても示した。
Yb系 母材媒質 |
誘導放出 断面積 [10-20cm2] |
蛍光寿命 [ms] |
熱伝導率 [W/mK] |
蛍光 スペクトル幅 [nm] |
フーリエ変換 限界パルス幅 [fs] |
実験例 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
パルス幅 [fs] |
平均出力 [W] |
||||||
YAG | 2 | 0.95 | 11 | 9 | 120 | 340 | 0.11 |
136 | 0.003 | ||||||
730 | 16 | ||||||
810 | 60 | ||||||
KYW | 3 | 0.7 | 3.3 | 24 | 50 | 71 | 0.12 |
KGW | 3 | 0.7 | 3.3 | 25 | 47 | 112 | 0.2 |
176 | 1.1 | ||||||
glass | 0.63 | 2 | – | 35 | 33 | 36 | 0.065 |
GdCOB | 0.35 | 2.7 | 2.1 | 44 | 27 | 89 | 0.04 |
BOYS | 0.2 | 2.5 | 1.8 | 60 | 19 | 69 | 0.08 |
86 | 0.3 | ||||||
YVO4 | – | 1.2 | – | – | – | 61 | 0.054 |
CaCdAlO4 | 0.55 | – | 6.9 | – | – | 47 | 0.038 |
近年、Yb 系レーザー媒質は注目されており、このように多くのレーザー媒質が開発研究されている。その中で、Yb:KYWとYb:KGW 結晶の研究が盛んである。これらのレーザー媒質は、誘導放出断面積が大きいことと、100 fs より短い超短パルスの発生が可能なことで注目されている。また、Yb:KYW 結晶においては、レーザーイオンのYb と母材結晶のY が完全置換されたKYbW 結晶などの高濃度イオン添加結晶などが報告されている。しかし、これらのレーザー結晶は2 軸性結晶であり、複屈折効果がある。更に、熱伝導率がYb:YAG より低く、結晶自体も堅牢でないという欠点もある。
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