建造途中での発艦。乗員の練度不足。さらには舞鶴工廠での戦闘で出た負傷者によって、《エスピランサ》は定員割れの状態だ。

そこへ下された補機の修復作業切り上げ命令によって、艦内はまさに猫の手も借りたい状況だった。戦災孤児とはいえ、日本を裏切った売国奴(マゴット)のシェルターで暮らしていた少年であるヒロも、本来だったら《エスピランサ》から降ろされていてもおかしくはない。『オプト・クリスタル』に関する機密を知っていること。職業訓練学校において、工作兵としての一定の知識を持っていること。また、売国奴(マゴット)が整備を担当する戦車兵器に関する知識を持っていることから、取り調べのあとすぐに上等兵の階級を与えられ、補機の補修工事を手伝うことになったのだった。

光子機関の多層円柱型超伝導コイルからは、放射線状に動力パイプが伸びており、そこに梯子階段(タラップ)やバルブ、各種計器、配線コード、制御盤が入り組んでおり、ちょっとした迷路のようだった。

この迷路――補機・光子機関の整備室にこもり、次々に仕事を振られているヒロは、ふっと息を吐いて額の汗を拭った。

舞鶴を発ってすでに半日。旧東京は目前に迫っていた。主機・増幅集積室(チャンバー)に入っていったナナとは、あれから一度も顔を合わせていない。

彼女がどうしているのかを考えるだけで、なぜかふっと力が湧いてくる。新たな人間関係にいきなり放り込まれ、不慣れな仕事をこなさねばならないヒロにとって、そんなナナの存在はある種の救いになっていた。

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