屈折率(n=c/v)が1と異なる均質媒質を透過する光ビームの位相速度は、真空中の光速cではない。しかし、光子の速度cに変わりはない。

どうして、このようなことが生じるのか?各原子で散乱された波は、前方方向でのみ同位相で重なり合い2次波を構成する。入射波である1次波も2次波もともに、原子間の空間を速度cで伝搬するにもかかわらず、両者が重なりあって形成される透過波の位相速度は、cよりも小さいときも大きいときもある。この矛盾を解くカギは、1次・2次両波の位相関係にある。

散乱原子・分子をモデル化した電子振動子の位相は、低周波数で駆動力(1次波)と同相である。周波数が大きくなると振動子位相には遅れが生じ、周波数増にしたがって位相遅れも増大する。周波数が共振周波数に至ると振動子位相は90°遅れとなる。さらに周波数を大きくすると、十分高周波では180°遅れとなる(下記図b)。2次波の位相は振動子に対して90°遅れるので、1次波に対する2次波の位相は、低周波で90°~180°の遅れ、共振周波数以上で180°~270°遅れ(↔90°~180°進み)となる (下記図参照)

Hecht Figure 4.9

図 減衰振動子の駆動周波数依存性 (a) 振幅 (b) 位相遅れ (c) 屈折率

 

1次・2次両波の重ね合わせである透過波の位相は1次波に対して、ω <ω0では遅れ、ω >ω0で進む(下記図)。ω = ω0では1次波に対して2次波が180°の位相ずれとなることから、透過波は振幅減少するものの位相は1次波と同相となる。

 

Hecht Figure 4.11

図 1次波・2次波と両者の合成波

2次波が1次波より進んでいる(遅れている)と、合成波も進んでいる(遅れている)。

 

上記の位相変化は透過波の伝搬とともに継続的に生じるために、透過波の位相は累進的に遅れる(あるいは進む)。この結果は、位相速度の減少(増加)となることを説明する。真空中のある点Pでの波動Ep(t)を

Hecht Formula 4.1

とする。もし、点Pが誘電体に囲まれていると、波動が点Pに移動するまでに累積した位相変化εPが発生し、点Pの波動は、

Formula-4.2

 

となる。2つの式から分かるように、誘電体に囲まれた点Pに波動の所定の位相位置が到達するのは、(εP > 0 位相遅延とすると)真空中と比較して時間εP/ωだけ遅延する。即ち、位相速度v < 真空中光速cであり、屈折率n > 1。同様に、透過波に位相進みがある場合は、v > c、n > 1である。以上を踏まえて、屈折率周波数依存性n(ω)の解釈を行う(上記図c参照)。

ω  <<ω0 の領域では、振動子振幅は極めて小さい(従って2次波振幅も極小)。2次波の位相遅延量は90°である。2次波の振幅が微小なために透過波の位相遅延量も小さい。
nは1よりわずかに大きいだけである。周波数の増加とともに、2次波の振幅・位相遅延量ともに増大する。透過波の累積的位相遅延量も増大し、位相速度vは減少、屈折率nは増大する。ω が w0に近づくと、2次波の振幅はさらに増大するが、1次波に対する位相はおよそ180°になる。このため、透過波の振幅は減少するが、位相遅れ量は減少し始める。ω =ω0では、1次波に対する2次波の位相はちょうど180°ずれとなり、透過波の振幅は最小値をとり、位相の累積変化量はゼロとなる。従って、v = c、n = 1である。ω>ω0の領域についても同様に解釈できる。n(w)曲線の正確な形状は、媒質特有の振動子減衰特性・振動子の空間密度・等に依存する。伝搬問題に対する厳密解は、
エヴァルト=オセーンの消衰理論として知られている。電子振動子が発生する電磁波は本質的に2項からなる。ひとつは媒質内部で1次波を完全に打ち消し、他の項は透過波として誘電体中を速度 v = c/nで伝搬する。以上の議論を踏まえれば、物質媒質中を伝搬する光はv≠cの速度で伝搬すると仮定できる。量子力学的モデルにおいては、光子に波長を関連付ける必要がある。何が、光子の波動的振る舞いを何がもたらすかは明確ではないが、p = h/λによって数学的には簡単に関連付けることができる。光子に波長概念を付随させるならば、当然、相対位相も導入すべきである。光子の位相が吸収・放出過程で変化することで、散乱光子は常に速度cで移動するとしても、位相速度変化に対応する屈折率n( = c/v)が出てくる。

 

参考文献

E. Hecht 著、尾崎義治・朝倉利光 訳「ヘクト 光学 I 」第9版 丸善(2013)