1867年、マクスウェルが最初の発表で扱ったのは、赤外から紫外に至る領域である。これは、広大な電磁波スペクトラムのごく小さな部分である。ここでは、全スペクトラムの主要区分を列挙する。

 

電波

1887年にヘルツは、ギャップ放電送信機と放電部をもつループアンテナ受信機を使用して電磁波の発生と検出に成功した。ヘルツが使った電磁波の周波数は、現在いうところの無線周波数域に属する。無線周波数域は、数 Hz~109 Hzに広がっている。

周波数1 MHzの無線周波光子エネルギーは、6.62 x 10-28 J あるいは 4 x 10-9 eVであり、極めて小さな量である。放射の粒状性は目立たず、連続的な無線エネルギーの伝送としての姿を示す。

 

マイクロ波

マイクロ波域の周波数は109 Hz~3 x 1011 Hzであり、波長は30 cm~1.0 mmである。地球大気に侵入できる電磁波の波長は1 cm~30 mであるために、マイクロ波は、宇宙船との通信や電波天文学で興味をもたれている。

分子を構成する原子の回転・振動運動を変化することでも光の放出・吸収が発生する。ただし、光と相互作用するために分子は極性である必要がある。電子と比較して原子の質量は大きく、関連する周波数はマイクロ波域にも及ぶ。例えば、水の2.45 GHzにおける吸収は、電子オーブンに応用されている。CO2やH2のような非極性分子では、光吸収による回転運動遷移は生じない。

マイクロ波の応用としては、通信や料理・航空機誘導・ワイヤレスドア・天体表面観測・等、多岐にわたる。

原子の微細準位間の遷移に対応して、マイクロ波の吸収・放出がある。例えば、セシウム原子基底状態の微細準位間遷移のエネルギーは4.14 x 10-5 eVであり、その周波数は9.19263177 x 109 Hzとなり、現在、周波数・時間の基準として利用している。

マイクロ波から赤外にまたがる領域(ほぼ50 GHz~10 THz)は、テラヘルツ波ともよばれる。テラヘルツ波は、ほとんどの乾燥した非極性材料(紙・プラスチック・等)を透過する一方、水に吸収され、金属で反射される。この性質を利用して、他の手法では困難な撮像に応用されている。

 

赤外線

赤外線の周波数範囲は大略、3 x 1011 Hz ~ 4 x 1014 Hzである。赤外線は4つに区分できる。近赤外線(780 nm ~ 3000 nm)と中間赤外線(3000 nm ~ 6000 nm)・遠赤外線(6000 nm ~ 15000 nm)・極端赤外線(15000 nm ~ 1.0 mm)である。

絶対零度でない限り、あらゆる物体は赤外線を放出している。例えば人体は、10,000 nmに極大をもつ3000 nmから極端赤外の領域の赤外線を放出している。太陽は、放射エネルギーの半分を赤外線として放出している。
赤外線を検出するには、黒化表面で赤外線を吸収し温度変化を検出する。検出器としては、サーモカップラーや焦電素子・ボロメーター・等がある。走査検出することで赤外撮像が可能となる。

放出赤外線を調べることで、対象物の微小温度差を計測でき、脳腫瘍や乳がんの診断にも応用されている。大出力のCO2赤外レーザーは、切断や熱処理用として産業応用されている。

 

光の周波数領域は、3.84 x 1014 Hz ~ 7.69 x 1014 Hzである(表3.4)。一般に光は、原子あるいは分子の最外電子の再配置によって発生する。

高温物体中では、電子がランダムな加速・衝突を繰り返し光を放出する。この広帯域の放射スペクトラムを熱放射とよぶ。ガス放電管では、励起原子が固有の波長光を放出する。

白色光が各種色光の混合であることはニュートンが最初に見つけた。人間の目-脳知覚系は太陽光のもとで発達したため、太陽光を白色の基準としている。しかし、白熱灯下の白い紙(太陽光下の白とは全く異なるが)も白く知覚する。目-脳知覚系は光のスペクトラムアナライザーではない。

色は光そのものの性質ではなく、人間の目-脳知覚系が作り出す性質である。例えば、黄色周波数光がなくとも、赤と緑の混合光を見れば黄色を知覚する。

太陽光下の光子束密度は1021 photons/(m2 sec)程度である。膨大な光子数のために、エネルギーの量子性は覆われている。極微弱光の場合、個々の光子が意味をもつてくる。人間の視覚に関する研究が示すところでは、人間の視認限界は10光子、おそらくは1光子である。

表 各種色に対する周波数・波長範囲各種色に対する周波数・波長範囲

 λ0 (nm)  ν (THz)
 780-622  384-482
 622-597  482-503
 597-577  503-520
 577-492  520-610
 492-455  610-659
 455-390  659-769

 

紫外線

紫外線の周波数範囲は8 x 1014 Hz ~ 3.4 x 1016 Hzであり、エネルギーは3.2 eV~100 eVであって、多くの化学反応のエネルギーと同オーダーである。幸いなことに、太陽から飛来する致死性の紫外線は大気中のオゾンO3が吸収してくれる。

角膜・水晶体の吸収のために、人間は紫外光を見ることができない。昆虫を代表としてかなりの動物は紫外線を感知する。

原子が紫外線を放出するには、大きなレベル差の電子遷移を必要とする。例えば、ナトリウムイオンが自由電子を補足して、基底準位に直接に遷移すると、イオン化エネルギーに等しい5.1 eVの紫外光を放出する。さらに大きなエネルギーの紫外光を放出するには、内殻電子の励起が必要である。

N2やO2・CO2・H2O・等の分子では、最外殻電子は価電子対を形成しており、(孤立原子状態と比較して)低エネルギー状態にある。その共鳴周波数は紫外域にある。

 

 

X線

X線の周波数域は大略、2.4 x 1016 Hz ~ 5 x 1019 Hzである。波長は原子寸法よりも小さく、光子エネルギーは100 eV~0.2 MeVである。最も実用的なX線発生方法は、荷電粒子流の急減速を利用するものである。例えば、高速電子ビームが銅板に衝突すると反跳し、その際、X線を放出する。

標的を構成する原子の内殻電子がたたき出されてイオン化すると、基底状態への遷移に際してX線を放出する。放出X線は量子化しており、原子のエネルギー準位構造を反映している。この放出X線は、特性放射とよばれる。

X線レンズが実用化されたために、X線顕微鏡や望遠鏡が可能となっている。回折格子や干渉計・ホログラフィーの研究もなされている。1984年には、ローレンスリバモア研究所で軟X線レーザーが実現した。

 

ガンマ線

ガンマ線は、最大エネルギー(104 eV~1019 eV)と最小波長をもつ電磁放射であり、原子核内の状態遷移に伴って放出される。大きなエネルギーのため検出は容易である一方、短い波長のために波動性の観察は極めて困難である。

 

 

参考文献

E. Hecht 著、尾崎義治・朝倉利光 訳「ヘクト 光学 I 」第9版 丸善(2013)