分散性媒質中では、全ての波動の速度は周波数に依存する。変調包絡線は成分波と異なる速度で伝搬する。群速度と位相速度の関係が重要となる。角周波数 ωavの搬送波を変調信号 E0(x, t) で振幅変調した波動

Formula 7.34

(式1)

を取り上げる。まずは、E0 = 一定(無変調状態)を考える。搬送波の一つ一つの山の移動速度は、

Formula 2.32

(式2)

である。式1から位相ϕ = (kavx – ωavt)であり、

Formula 7.36

(式3)

となる。これは、変調されているときでも搬送波の位相速度を示す。そのときは、搬送波の山が進むに従い振幅が周期的に変動する。変調信号が余弦関数の場合を考える。即ち

Formula 7.35

(式4)

である。変調包絡線の進む速度 vgは群速度とよばれ、

Formula 計算式なし (7)

あるいは

Formula 計算式なし (8)

である。通常の媒質では、角周波数ωは波長λに依存する。その依存関係 ω = ω(k) は、分散関係とよばれる。ωavを中心とする周波数範囲Δωが小さいときΔω/Δk は、ωavにおける分散関係式の微分値に等しい。

Formula 7.37

(式5)

である。典型的な媒質の屈折率周波数依存性n(ν) は、共鳴周波数(ν0)近傍で図1の様になる。

Figure 7.19

図 1 原子共鳴付近における屈折率の周波数依存性
共鳴周波数を中心とする吸収曲線も示す

n(ν)は通常νとともに増加する(正常分散)が、共鳴周波数近くでは傾きが負になる(異常分散)。この領域は吸収帯でもあり、媒質中を伝搬する波動のエネルギーは強く吸収される。分散関係をプロットすると原点を通る曲線になる(図2)。

Figure 7.20

図 2 分散関係のプロット
(a)は正常分散 v(wav) > vg(wav) であるが、(b)は異常分散v(wav) < vg(wav) である。
原点から任意点(w, k)に引いた直線の傾きが位相速度vであり、任意点の微係数が群速度vgである。

正常分散領域では上に凸、異常分散領域では下に凸となる。原点から曲線上の任意点(ω, k)に引いた直線の傾きは、その周波数の位相速度である。点(ω, k)における曲線の傾き(dω/dk)ωav、ωav を中心とする成分波集団の群速度になる。
正常分散領域では上に凸、異常分散領域では下に凸となる。原点から曲線上の任意点(ω, k)に引いた直線の傾きは、その周波数の位相速度である。点(ω, k)における曲線の傾き(dω/dk)ωavは、ωavを中心とする成分波集団の群速度になる。正常分散媒質では、周波数の高い正弦波は低い正弦波よりも大きな屈折率をもちゆっくり伝搬する。分散曲線の傾きは、直線の傾きより必ず小さい。つまり、vg< vである。逆に、異常分散媒質では vg > v である。

ω = κϖ であるから、式 5 は

Formula 7.38

 

(式6)

である。v がλに依存しない理想的な非分散性媒質では、dv/dk = 0 であり、vg= v となる。真空中では ω = kc であるから、v = vg= c となる。ω = kc/n であるから、n(k) を既知とするとvgは、

Formula 計算式なし (9)

あるいは

 

Formula 7.39

(式7)

と書き直すことができる。群屈折率 ng

Formula 計算式なし (10)

(式8)

で定義する。

速い光

特殊相対性理論は、光速以上の速さで伝搬する信号の存在を禁じている。しかし、位相速度は光速を越えることができて、実験的にも確認されている。正常分散媒質中の群速度は必ずc よりも小さい。異常分散媒質では群速度がc より大きくなるが、この場合も信号伝搬速度(あるいはエネルギー輸送速度)はc より小さい。1980 年代から、群速度が光速を越えることを確認する試みが続いている。群屈折率 ng

Formula 計算式なし(11)

で与えられる。群速度が光速を越えるには ng< 1 が必要である。それが可能なのは、分散値が大きい異常分散領域である。異常分散領域は吸収帯であり、大きな減衰のため観測は困難である。この問題は増幅媒質を利用することで解決できる。レーザー励起したセシウム原子で所望の分散・利得特性が実現できる(図3)。

Figure 7.22

図 3 光速よりも大きな群速度を実現する分散・利得特性

レーザー励起したセシウム原子を入れた容器(長さ6 cm)に、ガウス形状の光パルス(パルス幅3.7 μsec)を入射する。入射パルピークが容器に到達する前に(62 nsec先行して)、容器他端から出射パルスピークが現れた。ガウス波形のすその部分がセルに入ってくると、セシウム原子は周波数に応じた位相を変化を与えながら再放射する。この過程で入射パルスと同一形状の波束を再構築する。入射パルスは気体中で消滅するが、こうして合成されたパルスが、c よりはるかに高速で進んだかのように容器出口に現れる。

遅い光

光パルスの進行速度を大幅に小さくする研究も躍進している。群速度を遅くするには正常分散領域で分散を大きくする必要がある。冷却してボース=アインシュタイン凝縮状態にしたナトリウム高密度気体は大きな分散を示す。高密度気体で発生する強い散逸吸収は電磁誘導透過とよばれる技術で解決する。この手法によって、群速度を0.44 m/sec にまで下げることができた。気体をコヒーレントな量子力学系として機能させることで、照射された光パルスを吸収したのち、ある時間経過後に再放出により同一光パルスを再生できる。これは実効的に光パルスを停止させたことになる。

参考文献

E. Hecht 著、尾崎義治・朝倉利光 訳「ヘクト 光学 I 」第9版 丸善(2013)