反射・屈折を含む光の伝搬は、フェルマーの原理を用いて考察することができる。 ユークリッドは、“任意点Sから任意点Pへ反射面を経由して進む光は、とりうる経路の中で最短の経路をたどる”と主張した(図1)。
Hecht Figure 4.28

図1 光源SからPにある観測者の目に至る最短経路

図には複数の取りうる経路を描いてある。Sの像S’から光線が出ているものとしても、Pに至る距離は変わらない。複数の経路の中で、θirとなる真っ直ぐな経路
S’BPが最短となるのは明らかである。この議論を発展させて、1657年にフェルマーは最小時間原理を提唱した。境界を挟む点Sから点Pに至る光線は明らかに最短距離ではない(図2)。

Hecht Figure 4.29

図2 フェルマーの原理の屈折への応用

 これに対して、“光がたどる経路は、最小時間で通過できる経路である”と最小時間原理は述べる。最小時間原理を応用して屈折を考察する(図2)。xを変化させて、点Sから点Pまで移動する時間tを最小にすることを考える。移動時間tをxの関数として求めると、

となる。ここで、vi・vt:入射媒質中・出射媒質中の光速である。tが最小値となるxを求めるために、dt/dx=0とおくと、

Hecht Formula。番号なしNo.2。4.5 フェルマーの原理

を得る。図を参照するとわかるように、上式は、
Hecht Formula 番号なしNo.3。4.5 フェルマーの原理

となり、スネルの法則を得る。

屈折率の異なるm層からなる層状物質を通過する場合を考える(図3)。

Hecht Figure 4.30

           図3 層構造をなす媒質中を伝搬する光線

点Sから点Pまでの移動時間tは、

Hecht Formula番号なし。4.5 フェルマーの原理
ここで、si・viは、第i層の経路長・光速である。真空中の光速をc、第i層の屈折率をniとすると、
上式は、
Hecht Formula 4.9

(式1)

となる。総和部分は、光線がたどる光路長OPL(Optical Path Length)として知られる。屈折率nが位置の関数として与えられる不均質媒質では、総和が積分に変わり、
Hecht Formula4.10

(式2)

となる。光路長は、屈折率nの媒質中の移動距離sと等価な真空中の距離に対応する。

t = OPL/cであるから、フェルマーの原理を言い換えると、“光は、光路長が最小となる経路を通る”となる。

フェルマーの原理の現代的定式化

フェルマーの最小時間原理は修正する必要がある。df/dx=0のとき、f(x)は停留値(最大値か最小値または変曲点の値)をとる。
フェルマーの原理の現代的記述は、“SからPに進む光線は、経路の変化に対して光路長が停留値となる経路をたどる”となる。第1近似として、実際の光路の光路長はすぐ隣の光路の光路長と等しい。均質・等方媒質中の点Sから点Pへ光ビームが進む場合を考える(図4)。

Figure4.35

Figure4.35

図4 (a) SからPに至るどのような経路も光はとることができそうだが、
光路長が停留値となるただ一つの経路しかとらない。
他のすべての経路は実効的に打ち消し合う。
(b) 図中の上側経路では、三つの経路の光路長は大きく異なり、P点では弱め合うように干渉する。

媒質内の原子は、入射波で駆動されて全方向に再放射する(散乱する)。グループⅠの散乱波は、光路長が停留値をとる直線経路に沿う複数の経路を通る。これらの散乱波は、点Pまでの光路長の差がわずかであり、ほぼ同じ位相で点Pに到達する。各散乱波は点Pで強め合う干渉を生じる。グループⅡの散乱波は、光路長が停留値をとる経路から遠く離れた経路をとる。これら散乱波は、点Pまでの光路長差が相当大きくなり、点Pでは弱め合う干渉が生じる。フェルマーの原理を満たす光線に沿って(上の例ではSからPに至る直線経路)エネルギーは   効率よく伝搬する。

停留値経路

光路長は必ずしも最小値でないことを示す (図5)。

 

Hecht Figure 4.37

図5 楕円面での反射

 

3次元楕円体鏡の焦点に光源Sと観測者Pがある。Qが鏡面上のどこにあってもSQRは一定である。また、幾何学的性質からθirである。Sから鏡面を経由してPに至る経路の光路長はすべて等しく最小値ではないが停留値である。楕円鏡に変えて、点Qで楕円に接する平面鏡があるとすると(図5(c))、経路SQPの光路長は最小値となる。逆に、楕円内に示すような曲面鏡があると、経路SQPの光路長は最大値となる。フェルマーの原理は経路に関係し、伝搬方向には依存しない。PからSに至る光線は、SからPへ向かう光線と同じ経路をとる(逆進の原理)。フェルマーの研究が刺激となって、ニュートンの運動方程式を変分形式に書き換える努力がなされた。その最終結果は、ラグランジェの力学とハミルトンの最小作用の原理である。シュレディンガーが量子力学を構築する際には、フェルマーの原理とハミルトンの原理の類似性が重要な役割を果たした。1942年にファインマンは、変分法を用いた別の方法で量子力学が構成できることを示した。変分原理の継続的進展によって、量子光学の現代的定式化が発展し、光学自体が見直されている。

フェルマーの原理は光の伝搬を考える簡潔な方法であるが、計算道具としては便利といえない。関連する種々の機構に依存せずに、伝搬現象を大局的に把握する考え方である。このため、複雑な条件下でも本質的見通しを得ることができる。

参考文献

E. Hecht 著、尾崎義治・朝倉利光 訳「ヘクト 光学 I 」第9版 丸善(2013)