光と原子が相互作用するとき、光がもつ運動量が原子に移動し、原子の運動状態は大きく変化する。適切に制御された相互作用を行うことで、700 m/sec程度の原子速度をほぼゼロにすることができる。粒子系の温度は粒子の平均運動エネルギーに比例することから、この減速過程のことを光冷却あるいはレーザー冷却とよぶ。

質量m・速度uの原子ビームに対して、伝搬ベクトルkLのレーザー光子流が正面衝突している場合を考える。レーザーの周波数vLは、原子の共鳴周波数v0よりもわずかに小さい値にする。両周波数の関係は、v0=vL (1+υ/c)で与えられる。ドップラーシフト量|kLu|/2p =nLυ/cを考慮すると、原子から見たレーザー周波数は共鳴周波数に一致することが分かる。光子の運動量が移動することによって、原子の運動量はmΔυ= ħkLだけ減少する。原子は、Δυだけ減速することになる。

光子との衝突で励起された原子は、自発遷移によって光子を放出して基底状態に戻る。このとき、ランダムな方向に放出が起きるために、多数回を平均すると光子放出に伴う運動量変化はゼロである。吸収・放出の1サイクルあたり、原子の運動量変化はħkLであり、エネルギー減少量はhvLυ/cである。

光子流と同方向に運動する原子から見た光子周波数はnL(1-u/c)であり、共鳴周波数から大きく離れて、ほとんど吸収されない。したがって、原子の運動量が増加するような吸収はない。

 

参考文献

E. Hecht 著、尾崎義治・朝倉利光 訳「ヘクト 光学 I 」第9版 丸善(2013)