シオマネキが持つ複眼を応用した水陸両用パノラマカメラ

サリー・コール・ジェンソン

新たな光工学、非平面イメージング、柔軟性のある電子機器を組み合わせて、水中・地上の両環境に対応可能な「カニ眼カメラ」が研究開発された。

シオマネキ(カニ)の潜望鏡のような複眼は、パノラマイメージング機能が優れており、陸上でも水中でも対象物を見ることができる。韓国と米国の研究チームはその点からヒントを得て、表面が平らなマイクロレンズを作製し、水陸両環境で全方位イメージングが可能なパノラマの人工視覚システムを設計した(1)。
 生物を応用した人工視覚システムはすでに大きな進歩を遂げているが、これまでは水陸両環境でのイメージングには適さなかった。半球状(180 度)の視野角に限定されており、完全なパノラマビジョンや外部環境の変化への対応には不十分だった。
 そこで同チームは、シオマネキのように水陸どちらでも撮影可能な360 度のFOV(視野)カメラ(図1)の開発に着手した。平面光学系で360度の視野領域を有するカメラである。
 「シオマネキの眼内レンズは、角膜が平らで、水陸両方のイメージングに適した屈折率分布型になっている」と、韓国の光州科学技術院電気工学・コンピュータサイエンス学部のヤン・ミン・ソン教授(Young Min Song)は解説する。「従来の曲面レンズでイメージングを行った場合、水に浸すと焦点位置がずれてしまう。しかし、平面レンズを使用すれば、水陸の環境を問わず鮮明な画像を表示できる」。

図1

図1 カニ眼カメラは、陸上でも水中でも機能する(写真提供:GIST ヤン・ミン・ソン教授)

平面光学系マイクロレンズの作製

平面表面のマイクロレンズが存在しないため、同チームは、シオマネキの高性能なレンズを模倣してマイクロレンズを作製した。
 米マサチューセッツ工科大コンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)電気工学・コンピュータサイエンスのフレド・デュラン教授(Frédo Durand)は、自然界に存在する多様な光学設計に目が離せないと言う。「両生類の生物は、光学的特性が大きく異なる2つの環境で生活するため、特に面白い。このような課題に対処する方法を自然界から学ぶことは、身の引き締まる思いだ」と同教授は述べている。
 ほとんどのレンズは、空気とレンズの界面で、スネルの法則を利用して光線を曲げるという困難なことを行う。「しかし、空気中と水中の両方で光学処理を行う場合、屈折率が大きく異なるため、同じように曲げることはできない。それに対して、われわれの光学設計では、表面ではなく、内部で光線を曲げるのだ」とデュラン教授は言う。
 同チームは、このレンズを作製するために、屈折率を変えて何度もコーティング加工を行った高分子物質を使用した。試行錯誤の結果、最適化した処理条件で、屈折率分布型の完全な平面を作り出した(図2)。「最も素晴らしい点は、このレンズが自然界のカニ眼レンズと同じような特性を持っていることだ」とソン教授は述べている。
 シオマネキの眼のマイクロレンズの直径は約20μmだ。このため、同チームは、多様な用途に適用するために、直径が17μm、80μm、400μmの3種類のマイクロレンズアレイを作製した。
 「これらのアレイはすべて、直径、曲率半径、高さなどの点で非常に均一な形状をしている。これは、われわれのマルチスピンコーティング加工を、さまざまな形状のマイクロレンズアレイに適用できることになる」とソン教授は言う。

図2

図2 独自の人工的カニ眼マイクロレンズが研究開発された(画像提供:M・リー氏ら(1))

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/05/037-039_ft_fiddler_crabs.pdf