回折限界の12分の1の体積に光を集束する、誘電ナノキャビティ

サリー・コール・ジョンソン

デンマークの研究者らは、回折限界以下に光を集束する誘電ナノキャビティを構築し、シリコンなどの誘電材料ではそれは不可能だという、一般的な誤解を打ち消した。

半導体業界で広く用いられている、光を吸収しない誘電材料において、回折限界以下に光を集束するのは不可能だという一般的な誤解は、2006年に理論的に打ち消されている。ソーレン・シュトッベ氏(Søren Stobbe)率いる、デンマーク工科大(Technical University of Denmark:DTU)の研究者グループは最近、回折限界の12分の1の体積に光を集束する、蝶ネクタイ型の誘電ナノキャビティをデザインおよび構築することによって、これを確認した。
 回折限界は、従来の顕微鏡などの画像処理システムの基本的限界だが、誘電ナノキャビティには、回折限界などというものは存在しない。
 同氏らはどのようにして、誘電ナノキャビティを構築するという偉業を成し遂げたのだろうか。同グループは、実際のフォトニックナノテクノロジーとその現在の限界に関する知識をコンピュータにプログラムして、光子を収集するための最適パターンの検索を行い、その結果として得られた光ナノキャビティのデザイン(蝶ネクタイ型)を構築した。
 「基礎研究と応用の両方の面で意欲をかきたてられた。光と物質の相互作用の強さの基本的限界における調査と操作を行う実験ができるという心躍る側面が存在する一方で、これらのキャビティを使用して新しい量子デバイスと光相互接続が実現できるかもしれないという展望にも同じだけ興味を惹かれた」と、DTUの電気およびフォトニクス工学部の准教授であるシュトッベ氏は述べている。
 同グループは、そのようなデバイスを実際に構築するという、ナノテクノロジーの基本的な課題にも突き動かされた。それには、デザインとナノファブリケーションを統合するための新しいアプローチと、シリコンフォトニクスに対するナノリソグラフィの限界の押し上げが必要だった。
 シュトッベ氏は次のように語っている。「2006年に、現在はコロンビア大(Columbia University)に在籍するミハル・リプソン氏(Michal Lipson)のグループによって、この新しいタイプのキャビティについて概説する、最初の理論的な論文が発表された。ダーク・エングルンド氏(Dirk Englund、MIT在籍)のグループによる、より最近の理論的研究では、これらのキャビティを利用することによって、バルク光学的非線形性を高め、単一光子レベルで有効にできる可能性が、論じられている。この効果はこれまでのところ、量子エミッタでしか実現されていない。それ以外にも、スティーブン・ジョンソン氏(Steven Johnson、MIT)、イェスパー・モルク氏(Jesper Mørk、DTU)、オレ・シグムンド氏(Ole Sigmund、DTU)の研究が、重要なインスピレーション源になった。それらの研究では、誘電ナノキャビティのデザインにおいて、トポロジ最適化が特に効果的であることが示されていた。実際、モルク氏とシグムンド氏は、このプロジェクトに直ちに協力してくれた」。

誘電光ナノキャビティ

光ナノキャビティは、「光を長時間蓄積して、小さな体積に集束すること」によって機能すると、DTUの博士課程の学生であるマークス・アルブレヒツェン氏(Marcus Albrechtsen)は述べて、次のように続けた。「キャビティの品質(蓄積時間)を高めるための研究は大きく進歩しているが、キャビティモード体積(集束性)の改善はこれまでのところ、金属を使用してしか達成されておらず、金属は光を吸収することが、多くの応用分野において問題になっている」。
 金属ナノキャビティを研究する理由の1つは、誘電材料からなるキャビティは回折限界以下に光を集束できないという、一般的な誤解にあった。
 「われわれは金属ではなく、シリコンでできた蝶ネクタイ型のキャビティに取り組んでおり、そのキャビティの体積は、製造可能な最小フィーチャに依存する。シリコンは誘電材料であるため、吸収は問題にならない」と、アルブレヒツェン氏は述べた。
 同氏らの研究は、デザインとファブリケーションの統合に重点を置いている。「それらは当然ながら、決して完全に独立してはいないが、われわれの実験では、この統合を新たなレベルに引き上げる必要があった。われわれは、最先端ナノファブリケーションプロセスの製造公差を直接測定してから、それを『トポロジ最適化』として知られる逆設計用の最先端手法と組み合わせることによって、シリコン内部の光と物質の相互作用を最大化した」と、アルブレヒツェン氏は述べた。
 そうして得られたのが、新しいナノスケールのキャビティ(図1)である。このキャビティは、回折限界の12分の1に光を閉じ込める。そのデザインのすべてのフィーチャが正確に作製可能で、光学測定によって数値計算が裏付けられる。

図1

図1 中心部分の回折限界よりもはるかに小さな体積に光を集束して強化するこの新しいナノキャビティを、アーティストが表現したもの。構造の中の多くの微細なフィーチャが作製可能なのは、製造制約を考慮に入れてデザインされているためである(画像提供:DTU)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/05/034-036_ft_silicon_photonics.pdf