「まだ実現不可能」なものを実現化

ピーター・フレッティ

拡張現実(AR)技術の飛躍的な進歩に伴い、現実の世界にデジタルオブジェクトを表示させるヘッドセットの開発が進んでいる。つまり、近くにある物体にも遠くにある物体にも、自然に焦点が合って、手の届く距離でAR物体とインタラクション(やり取り)を行う体験が可能になる。

過去10年間にわたり、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(XR)のロードマップに沿った進歩は、本来、非常にゆっくりと進むものであり、そのわずかな進化でも将来の夢を構想できたのである。
 従って、真の進化の到来は、喜びに値するものだ。次はその一例である。ARゲーム用のホログラフィック・ディスプレイ技術を開発する英ヴィヴィッドキュー社(VividQ)と、導波路を設計・製造するフィンランドのディスペリックス社(Dispelix)は協働し、ユーザーの環境内で同時に深度変化させて3Dコンテンツを正確に表示できる「導波路コンバイナー」を設計・製造することになった。
 現在市販のARデバイスは、装者から離れた、手の届かない位置に固定して画像を表示するため、インタラクションが制限され、輻輳調節競合(VAC)や眼精疲労につながる。
 「ARを一般市場に普及させるためには、ユーザーが長時間、吐き気や眼精疲労を引き起こさずに操作できる没入型ARエクスペリエンスを提供する必要がある。可能な限り軽量で、現実の世界とデジタル世界をシームレスに融合できるヘッドセットを購入できるようになるだろう」と、ヴィヴィッドキュー社のCTO(最高技術責任者)であるトム・デュラント氏(Tom Durrant)は述べている。「このような体験を実現するには、手の届く距離にある3Dのデジタルキャラクターやデジタルオブジェクトと、自分の周囲(机、室内、屋外)にある他のオブジェクトとのインタラクション機能が必要だ。消費者向け製品でこのようなインタラクションを実現するためには、ホログラフィーが唯一の現実的な技法である」。

図1

図1 現実の世界に正確に配置された物体と、手の届く距離でインタラクションできる体験を表すコンセプト画像

導波路コンバイナーの考察と理解

導波路は、ARヘッドセットの前面部を軽量でありながら従来の外観を維持できるため、ARヘッドセットを普及させるために必要なものだ。現行の導波路は、瞳孔複製法を用いて小型ディスプレイパネルやアイボックス(射出瞳)から画像を取り込み、ユーザーの目の前に小さな画像の複製を格子状に配置して画像を拡大する。ARを装着しやすい、人間工学に基づいた、使いやすいものにする一方で、小型のアイボックスをユーザーの瞳孔に合わせるのが非常に難しく、その結果、ユーザーの視線が画像から外れてしまうことがある。
 この仕組みには、ユーザーに合わせて正確にフィットするヘッドセットが必要とされる。しかし、瞳孔間距離(IPD)はユーザーによって異なるため、アイボックスに合わせることは非常に困難だ。ディスプレイの視野角(FOV)を最大化するにはアイボックスを小さくしなければならない、という根本的なトレードオフがあるが、画像を複製すれば、ユーザーが視聴できる画像を拡大できる。この複製技術によってアイボックスを非常に小さく設計でき、同時に視野角も最大化できる。
 さらに、導波路は入射光線が平行であることを前提としており(つまり2次元画像)、構造体内で跳ね返る光はすべて同じ長さの経路をたどる必要がある。このため、長さの異なる発散光線を追加(3次元画像)すると、複数の部分的に重なる入力画像の複製がばらばらの距離で見えてしまうため、問題が生じる。現在、AR体験に必要なアイボックスと視野角を確保するために、2Dディスプレイタイプのみの使用に限定されているため、完全な没入型エクスペリエンスも得られず、吐き気や眼精疲労を引き起こす可能性もある。
 ヴィヴィッドキュー社の3D導波路は、2点の要素を兼ね備えている。1点は、標準的な瞳孔複製導波路の設計を改良したものであり、もう1点は、導波管による歪みを補正するホログラムを計算するアルゴリズムである。

図2

図2 既存の導波路は、入射光線が平行であることを前提としており(つまり2次元画像)、構造体内で跳ね返る光はすべて同じ長さの経路をたどる必要がある。このため、発散光線を追加(3次元画像)すると、入力された3D画像のどこから光線が発生したかによって、光線の経路はすべて異なるものになる。これは大きな問題で、抽出された光はすべて異なる距離を移動したことになり、左の画像に示すように、複数の部分的に重なる入力画像の複製がばらばらの距離で見えてしまうことになる。この状態では、どのような用途にも使用できない。しかし、右の画像に示すように、新しい3D導波路コンバイナーは、発散光線に適応し、画像を正しく表示できる

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/05/014-016_ft_making_the_quasi_impposible.pdf