宇宙用赤外線レーザ通信時代の到来

サリー・コール・ジョンソン

NASAのレーザ通信リレー実証機(LCRD)は、現在、双方向の赤外線レーザリレーシステムを用いた光通信を、宇宙空間内において試験的に行っている。この通信は、対地同期軌道内と地球上の地上局との間で行われる。

データ帯域幅の拡張。高速化。サイズ、重量、電力、コストの削減。過密な無線周波数(RF)スペクトラムからの脱却。これらは、赤外線レーザと光リンクによる宇宙船との情報伝送からもたらされる便益のほんの一握りにすぎない。
 2021年12月7日、NASAのLCRDは、地球上空22000マイルの対地同期軌道に打ち上げられ、米国防総省の宇宙試験計画Satellite-6衛星のペイロードとして搭載された。その目的は、宇宙探査の開始以来、宇宙通信に使用されてきた電波に代わる、レーザ通信の技術をテストすることだ。
 NASAゴダード宇宙飛行センターのLCRD実験責任者であるデイヴ・イスラエル氏(Dave Israel)は、「長年、光通信は将来的に実現すると予測されてきたが、今がまさにその時代だ。光通信は、技術面で『構想段階』を超えた」と言う。

レーザ通信

なぜ赤外線レーザなのか。赤外線ビームは、RFシステムに比べてはるかに狭帯域の波長に多くの情報を載せることができ、地上局は1回のダウンリンクでこれまで以上に大量のデータを受信できるからだ。
 光通信では、ある場所から別の場所の受信機に向けて狭帯域のビームを直接送出する(図 1)。光通信用望遠鏡の場合、特にターゲットが数千マイルや数百万マイルも離れていると、ターゲットに対して極めて正確に位置を合わせなければならない。
 LCRDの観測装置は、LCRDコンポーネントのバックボーンとして機能するサポートアセンブリフライト(LSAF)に搭載されている(図 2)。観測装置にはスタートラッカーと、地球とデータを送受信する赤外線レーザを発生させる2つの光学モジュール、そしてLSAFの裏側に取り付けられた、レーザ信号にデータをエンコードするモデムを備えている。
 LCRDの2台の独立した光通信端末には、それぞれ口径10cmの光モジュール、つまり望遠鏡が組み込まれている。「これらの光通信端末はそれぞれ個別のモデムに接続されている。制御系電子機器も少し利用しており、コンピュータシステムには、最も難易度が高いとされる捕捉と追跡を行う光モジュールが接続されている。なぜなら、狭帯域のレーザビームでは捕捉と追跡がさらに困難になるからだ」と、イスラエル氏は述べる。
 2台の光通信端末は、それぞれ反対側にあるデバイスと双方向に接続できる。そして、2台の端末の間にあるスイッチで、一方の端末からもう一方の端末にデータを転送するように切り替えることができる。また、双方向RFリンクもあり、必要に応じてデータ通信をRFリンクに切り替えて、例えばニューメキシコ州ホワイトサンズにデータを送信できる。
 「NASAでは、軌道上のユーザーとの間でデータを送受信し、そのデータを地球に中継するように設計された中継リンク、光リンクの技術を実証している。雲や宇宙ゴミが悪影響してデータが地球に届けられないときのバックアップとしてRFを使う」と、イスラエル氏は言う。
 光リレーは、NASAがさらに高いデータレートを実現するのに役立つと期待されているが、「NASAのミッションの最も重要な点は、こういった通信リンクを大気圏で確保し、天候の影響に耐え、地上局までつなぐことだ」と、イスラエル氏は述べる。「曇のないときは、大気を経由して、いかにして最適な状態で通信できるかを実証し、把握できるように取り組んでいる。そして、曇天下では、別の地上局にどの時点で切り替えるかを予測して判断できるように、さらには、こういったすべての運用上の懸念を把握できるように取り組んでいる」。
 ミッションの後半では、LCRDは、国際宇宙ステーション(ISS)の光通信端末と地上局の間の中継の役割を果たしていく。

図1

図1 国際宇宙ステーションの ILLUMA-Tから地球上の地上局にデータを中継する LCRDのイラスト(画像提供:NASAゴダード宇宙飛行センター/デイブ・ライアン氏)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/03/028-030_ft_infrared_lasers.pdf