研究所から犯罪現場に展開する分光学

ジャスティン・マーフィー

犯罪現場では、証拠が乏しかったり、効率的かつ正確に分析する方法がなかったりすると捜査が困難になることがある。研究者はこのような課題に対して、生物製剤に注目した分光学的手法で軽減しようとしている。

DNAは犯罪捜査において最も強力な証拠の1つである。しかし、DNAが入手できなかったり存在しなかったりする場合には、捜査官は事件解決のために他の生物試料に頼るしかない。現在、ニューヨークの研究者は、DNA以外の証拠を最大限に活用するために分光法を用いている。
 「我々は体液を識別する方法を開発している。法医学者が行う微量体液識別だ」と話すのは、米オールバニー大(University of Albany)の博士課程の学生のアレクシス・ウェーバー氏(Alexis Weber)だ。同大化学教授で研究室のグループリーダーであるイゴール・レドネフ氏(Igor Lednev)が2019年に設立した材料認証スタートアップ企業スプリーメトリック社(SupreMEtric)の最高執行責任者も彼が務めている。
 同社 は『Forensic Science International』誌に掲載された研究をベースに、生物による染みや液体を分析する非破壊的技術を開発した。レドネフ氏と、フェロー研究員で同大化学教授のケリー・ ヴァークラー氏(Kelly Virkler)はこの研究について、「犯罪現場にある未知の染みを、研究所からの結果を待つことなく特徴を明らかにできること」は、法医学の体液分析の発展において重要なステップになるだろうと指摘する。
 本来、分光学をもとにするシステムは非侵襲的で医療診断のみに使われていたが、法医学分野への応用も有効であることが示されている(図 1)。主な体液の検出・分析においてサンプルを全く破壊することなく99%以上の有効性があることが確認されている(図 2)。これは、犯罪現場に体液などが少量しかない場合で特に有効である。また、未解決事件の捜査を後押しし、DNAサンプルの検査や分析が何年も待たされているのを回避できる。DNAサンプルを入手できなったとしても、DNA以外の証拠も同様に説得力があると、ウェーバー氏は述べる。

図1

図1 スプリーメトリック社の非破壊的な分光学ベースのシステムに搭載されているレンズがつくる研究者の逆さ像

図2

図2 新システムは、体液を画像化するためにアレクシス・ウェーバー氏が操作する共焦点ラマン分光計とレーザ光を使うラマン分光法で動作する

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/03/026-027_ft_spectroscopy.pdf