フォトニクスで飛躍する電動飛行

ヴァレリー・コフィ・ロズィッヒ

「空飛ぶクルマ」、「eVTOL(電動垂直離着陸機)」、「巨大ドローン」など、さまざまな呼び方があるが、フォトニクスは、急成長する自律型の電動航空機の実用化において大きな役割を担っている。

空飛ぶクルマの登場は遠い先の話ではない。試算によると、全電動式及びハイブリッド電動式の空飛ぶクルマは、なんと700件も開発されており、その多くが実際に飛行している(1)。市場調査会社の米マーケッツ&マーケッツ社(MarketsandMarkets)によると、eVTOL航空機の世界市場規模は2021年に85億米ドルで、2030年までには
CAGR(年平均成長率)15%で308億米ドルに達する見込みである。
 その資金はどこから出ているのか。政府(主に政府機関のプログラム)や軍事・航空宇宙関連業者、航空宇宙企業、航空会社、自動車メーカー、法人企業、ベンチャーキャピタル、学術研究、個人による世界的な取り組みだ。NASA、米ボーイング社(Boeing)、トヨタ、米ウーバー社(Uber)、米インテル社(Intel)、マサチューセッツ工科大などが出資しているが、これは米国内だけでも全体のごく一部に過ぎない。合併、設計競争、生産契約などの活発な動きが見られたが、すでに収束の方向に向かっている。なぜなら、実用化されるのはほんの数十種類の設計モデルに限られるからだ。
 娯楽用の全電動式の空飛ぶクルマが2022年に世界初の市販品として発売された。同年中頃には、スロバキアのエアロモービル社(Aeromobil)またはスウェーデンのジェットソン・エアロ社(Jetson Aero)(図 1)から空飛ぶクルマを「予約注文」できる運びとなった。
 インフラや規制が整備されているかどうかにかかわらず、すでに多数のプロトタイプが飛行しており、こういった空飛ぶクルマにはすべて、先進的なフォトニクス技術を数多く搭載している。有機EL(OLED)ディスプレイ、赤外線 (IR)カメラ、可視光カメラ、レーザ高度計、ライダセンサ、赤外線センサなどである(図 2、3)。つまり、長年にわたりジェットソン社が、有人飛行に対し、直面する現実的な問題に取り組み、目指していたことが、実現しつつあると言える。
 空飛ぶ電気自動車の開発への主な動機は、都市交通とそれに伴う混雑、騒音、燃料消費、汚染という世界的な問題である。次世代エアモビリティ(AAM)またはアーバンエアモビリティ(UAM)の目標は、航空路に沿って電動で自律飛行する都市のエアタクシーやエアシャトルのようなものだ。例えば、空港から駅まで、ビルの屋上から別のビルの屋上まで、便利で静かな、かつ時間の節約になる、持続可能でクリーンな交通手段を実現することである。
 アーバンエアモビリティ産業で最も注目され、追求されている一般的な飛行体が、自律飛行型の「電動垂直離着陸機」(eVTOL)と呼ばれる航空機だ。この軽量でバッテリー駆動のエアタクシーは、大規模空港によくある自動運転モノレールのように、短距離飛行を繰り返すために使用されるため、通常、無人運転になるように設計されている。
 オンデマンド型のライドシェアフライトのコストは、将来的には1旅客マイルあたり2ドル程度にまで下がり、現在の地上交通のUberXと同程度になる可能性があると、業界では試算されている。
 1人から2人乗り用の娯楽用途のeVTOLは、世界初の市販品である。ジェットソン・エアロ社製の「ONE」は、ジョイスティックを搭載した人間サイズのドローンであり、超軽量航空機に該当するため、操縦士免許は不要だ。米国をはじめ多くの国では、米国連邦航空局(FAA)Part 103の規制により、Jetson ONEの飛行は空港ゾーンから離れた郊外で日中のみに限定されている。
 ONEは、充電1回あたり時速63マイル(時速102km)で20分間飛行でき、独自のライダアシストによる障害物・地形回避機能を搭載している。また、他の多くの設計モデルと同様に、推進システム、フライトコンピューター、パラシュートシステムに二重、三重の冗長性を確保するといった安全対策が施されている(2)。
 米空軍は2022年6月、「AFWERXAgility Prime(アジリティプライム)」プログラムの一環として、スタートアップ企業の米リフトエアクラフト社(Lift Aircraft)か らeVTOLモ デ ル「Hexa」5機を調達する計画を発表した(図 4)。同プログラムの目的は、来のヘリコプターに代わる、より安価で燃費の良い航空機を導入することである。1人乗り用で18基のローターを持つHexaも、超軽量航空機に該当し、同じく操縦士免許は不要だ。胴体下部にフロートがあり、水陸両方でソフトランディングが可能である。
 AFWERX Agility Primeプログラムの予算には、試験及び評価用のeVTOL航空機計24機を2023年度の新興企業から調達する360万ドルが組み込まれている。該当企業としては、リフト社、米国のフェニックスソリューションズ社(Phenix Solutions)、ジョビー・アビエーション社(Joby Aviation)、エルロイエア社(Elroy Air)、ムーグ社(Moog)、ベータ・テクノロジー社(Beta Technologies)などが挙げられる。

図 1

図 1 1人乗り用eVTOL「Jetson ONE」は、残念ながら、2022年と2023年分については、すでに完売している。しかし、92000ドルで、2024年に市販される同空飛ぶクルマの予約注文は可能だ。スウェーデンから配達された後、自分で組み立てる必要がある。Jetson ONEは、米国では超軽量航空機に分類され、操縦士免許は不要だが、郊外での飛行に限定されることになる(提供:ジェットソン社)

図2

図2 エアロモービル社の「Flying Car 4.0」の内部には、超薄型でエネルギー効率の高い有機ELが最適な多数のディスプレイが見られる(提供:エアロモービル社)

図3

図3 米アエロGアビエーション社(AeroGAviation)の10人乗り用ハイブリッド式の空飛ぶクルマ「AG4」の室内キャビンの図では、天井全体が有機ELディスプレイで覆われ、景色などが外部カメラからディスプレイに映し出されることが示されている(提供:アエロG社)

図 4

図 4  米空軍のAFWERXプログラムでは、2022年5月3日、 フロリダ州ハールバートフィールドで、リフトエアクラフト社の「Hexa」を使用して同軍初の有人eVTOL飛行を行った(提供:米空軍 軍人サージェント・テイラー・クルル氏)

障壁

規制やインフラの機能不全は依然として障壁となっているが、アーバンエアモビリティ市場向けに設計されたeVTOLの多くは、各国の認証審査を1件ずつ通過する必要がある。日本のスタートアップ企業のスカイドライブ社は、空飛ぶクルマを開発する有志団体カーティベーター(CARTIVATOR)からスピンアウトし、2022年9月にアーバンエアモビリティ市場の最新型eVTOL「SD-05」を発表した。第5世代の空飛ぶクルマである同機は、ドローン型で、12枚のプロペラを持つ超軽量の娯楽・通勤市場向けである。同機は2人乗り用(1人は操縦士)に設計され、1100ポンド(500kg)の荷物を運搬可能で、時速62マイル(100km)で31マイル(50km)の航続が実現できる(図5~7)。

図5

図5 スカイドライブ社は、 eVTOL「SD-03」の試験飛行が成功したことで、日本での型式証明取得と将来のモデル商用化への道が開かれた(提供:スカイドライブ社)

図6

図6 スカイドライブ社製「SD-05」の図に見られるように、ベリポートやターミナルはまだ建設されていない(提供:スカイドライブ社)

図7

図7 スカイドライブ社は、2025年に大阪で開催される国際博覧会にて、有人eVTOLの飛行する環状ルートを構想している(提供:スカイドライブ社)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/03/018-021_ft_future_photonics.pdf