2光子顕微鏡法によるバイオ研究の進歩
2光子レーザ走査型顕微鏡法を対象とした数十年間にわたる研究によって、in vivo の神経活動を3次元で測定するための新たな手段が、神経科学者らにもたらされている。
2光子顕微鏡法にはここ数年で多数の進歩があった。例えば、遺伝的に符号化された新しい蛍光センサ、空間情報を時間で多重化する測定方法、大きな範囲や複数の範囲を同時に観察できる顕微鏡などである。
超短パルスレーザは世代ごとに新たな進歩をもたらす。その最も顕著な例が、第1世代の超短レーザパルスを実現した、衝突パルスモード同期(colliding-pulse mode-locking:CPM)色素レーザである。生物物理学者のワット・ウェッブ氏(Watt Webb)は1980年代初頭に、物理学者のウィンフリード・デンク氏(Winfried Denk)とジェームス・ストリクラー氏(James Strickler)とともに、世界初の2光子蛍光顕微鏡を発明した。デンク氏はその10年後、再生チャープパルス増幅システムを使用して、高出力の超短パルスによるイメージングの深度を1mm以上にまで拡大した。現在はチューナブルなチタンサファイア(Ti:sapphire)発振器が、市場の最先端として存在する。
ここ数年の間に登場した、次世代の固定波長ファイバレーザ技術も例外ではない。これらの進歩は、超小型顕微鏡やモバイル設定など、新しい種類の測定を可能にする。
2光子顕微鏡法のメリット
2光子イメージングは、蛍光イメージングの1種である。可視光によって直接励起する代わりに、近赤外(nearIR)光による蛍光標識の2光子励起を使用する。アッベ回折限界のスポット径は近赤外領域では大きくなるが、2光子吸収過程は、光強度に対して線形ではなく、その二乗に比例する。
蛍光の励起と発光は、標準的な蛍光イメージングのような円錐状の励起領域ではなく、焦点体積に限定される。この小さな焦点体積によって、単光子の場合よりもはるかに高い深度分解能が得られ、レゾナントガルバノスキャナや音響光学素子によるサンプル全体の走査が可能である。2光子顕微鏡は、複数の深度スライスを走査することによって、画像を3次元で収集することができる。また、近赤外光は組織を透過する際の散乱が可視光よりも低いため、2光子顕微鏡法は、遺伝的に符号化されたセンサと組み合わせて、in vivo イメージングに用いられることが多い。
ファイバレーザ技術の次世代用途
2光子顕微鏡法用の(ウェッブ氏らが開発した)最初の装置は、机ほどのサイズだったが、今ではわずか3gにまで小型化されている。連続波ミニスコープ(小型顕微鏡)は、その発明から10年以内に2光子深度イメージング用に改変され、2光子イメージングレーザのフットプリントは現在、大きな辞書よりも小さくなっている。
ノルウェーのカブリ研究所(Kavli Institute)のモーザーグループ(Moser group)に所属する研究者であるウェイジャン・ ゾン氏(Weijian Zong)は、2017年から2光子顕微鏡法の小型化に取り組んでいる。同氏は、それまでの2光子ミニスコープを拡張して、3gのヘッドマウント顕微鏡「MINI2P」を開発した。これまでよりも格段に広い視野を持ち、自由に動き回るマウスの複数の焦点面内にある最大1000個の神経細胞を撮影することができる(図1)(1)。
マイクロオプティクスは、この小型化において非常に大きな役割を担っており、可変焦点用にMEMS圧電素子の4重レンズ、ラスタ走査用にMEMSスキャナが採用されている。MINI2Pのこれまでの世代には、最大限のパルス品質と画質を実現するために、チタンサファイアシステムが採用されていたが、それがこの研究用装置のモビリティを制約する要因になっていた。MINI2Pプロジェクトにおいてゾン氏は、このファイバ接続の顕微鏡を、登り壁があるケージや迷路など、さまざまな環境で使えるようにしたいと考えた。そこで同氏は、モバイルカートを構築し、市場で提供されているものの中から、パルスペデスタルやウィングがない最高品質のsech2パルスを提供するものとして、独トプティカ社のファイバレーザ「FemtoFiber Ultra 920」を選択して、このカートに搭載した。
同氏は920nmのレーザ出力をMINI2P顕微鏡にファイバ結合することにより、環境内を自由に動き回るマウスの中の遺伝的に符号化されたGCaMP(カルシウムに反応して神経活動を示す蛍光タンパク質)を撮影した。頭部を固定したマウス(発泡スチロールの玉の上を歩き回っている場合もある)に、コンピュータ画面の仮想現実環境を見せて撮影するという設定も存在する。しかし、その設定では、登ったり跳ねたりといった活動時のマウス脳を観察する能力が制限される。MINI2P顕微鏡によって研究者は、そうした行動を直接調査することが可能となり、行動と細胞レベルの認識の相関に関する新たな次元の洞察を得ることができる。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/03/014-016_ft_two-photon_microscopy.pdf