宇宙向けハイブリッド推進部品のレーザ金属堆積

ウリ・クラスケ

3Dプリントとしても知られる積層造形(AM)は、医療、自動車、民生製品、商用航空の他、最も興味深い分野として宇宙探査に利用されている。

電子ビーム積層造形(Electron Beam Additive Manufacturing:EBAM)、ワイヤーアーク積層造形(WAAM)、レーザハイブリッドアークなどの付加的なプロセスは、タンクや構造物の構築に対して実証されているが、太陽系やその外側の宇宙空間を本当に探査するには、打ち上げ機の推進装置をプリントするためのより良い方法を開発する必要がある。レーザ粉末床溶融結合法(Powder Bed Fusion:PBF)とも呼ばれるレーザ金属溶融(Laser Metal Fusion:LMF)と、レーザ指向性エネルギー堆積法(Direct Energy Deposition:DED)とも呼ばれるレーザ金属堆積(Laser Metal Deposition:LMD)は、そのような高遠な目標の達成を支える手段である。
 米国ミシガン州プリマス・タウンシップにある独トルンプ社(TRUMPF)のレーザ応用研究所は、LMFとLMDの両方を組み合わせた興味深い手法を用いて、ロケットエンジンのインジェクタとノズルを積層造形で作成した。
 このプロジェクトではまず、NASAが開発した銅合金GRCop-42でプリントするように設計されたインジェクタを作成した。GRCop-42は熱伝導率が高く、LMFの粉末床装置でプリント可能である。続いてLMDプロセスを適用して、排気ガス用の幅広の円錐形のノズルをプリントした。
 両方のプロセスを組み合わせることにより、インジェクタチャンバ内部で液体を流すための複雑な冷却路設計と、熱伝導に必要な薄壁構造を作成することができた。LMDのフリーフォームの性質により、幅広で裾野が広がった円錐形状を、粉末床に制約されることなくプリントすることができる。2つのAM手法を組み合わせることが、宇宙探査の可能性を開くための鍵である。

溶接部

レーザAMにおいてDEDは、従来の溶接手法との類似性を持つプロセスである。
 LMDによって溶接部を生成するプロセスの基本的な流れは、以下のとおりである。レーザ誘起によって溶接池を部品表面に生成すると同時に、金属粉末を粉末ノズルによってそこに添加する。すると、固体の金属粉末が溶融して、その下の材料との金属結合が生成される。溶融池を周辺環境から保護するために、シールドガスを使用することができる。熱伝導によって溶融池が凝固し、溶接ビードが形成されると、従来の溶接部の一般的な特徴が現れる(すなわち、溶融または希釈と、熱影響部が生じる)。
 さらに多くの材料を溶融して堆積させ続けると、構造を増大させることができる。それは、1つの大きな溶着物とみなすことができる。CNC機械やロボットなどの動作制御システムを利用して、このプロセスに溶接ヘッドの動きを組み合わせれば、優れた精度と再現性で溶接ビードを部品の上に配置することができる。ビードの配置に応じて、このプロセスを接合、クラッディング、部品修復、積層造形に利用することができる。

宇宙探査分野の用途

宇宙分野には、積層造形を利用した製造に適した複数の用途が存在する。レーザAMは、微細形状、内部冷却路、突出部の生成など、従来の製造手法の限界を克服する。また、新たなイノベーションを可能にて、既存の製造プロセスチェーンの効率を高めることができる。
 最新の技術進歩を利用することにより、DfAM( Design for Additive Manufacturing:積層造形のための設計)を適用した急進的な設計概念を実現し、機械学習や人工知能(AI)を活用したアルゴリズム設計によって、全く見たことも聞いたこともないデザインの作成を支援することができる。
 当社は既に、粉末噴射によるLMDプロセスを使用して、スラストチャンバ(推力室)の延長ノズル用部品を、ほぼ完成形の状態でプリントすることに成功している(図 1)。従って、このプロセスが宇宙探査に対して多大な可能性を秘めていることは明らかである。

図1

図1 ハイブリッド部品の718部分に対するLMD処理(提供:トルンプ社)

技術背景

関連プロセスパラメータに関する一般的な知識は、付加的なLMD応用プロセスの適切な設定と運用において重要である。しかし、安定したプロセスに必要なものの中で最も重要なのは、レーザ出力、粉末供給速度、そして処理速度である。これら3つのパラメータを個々に切り分けて、さらに詳しく見ると、その影響は次のようにまとめることができる。
・ レーザ出力は、関連材料を溶融するためのエネルギーを供給する。これは、希釈、溶融、熱影響部の規模を左右する最大の要素である。レーザ出力は、トラック幅と、部品に加わる全体的な熱入力にも影響を与える。
・ 粉末供給速度は、処理領域に供給される粉末の質量流量を定義する。このパラメータは主にビードの高さと、下の材料との希釈に影響を与えると、一般的にみなされる。
・ 処理速度は、加工対象物上をノズルが動く速度で、ビードまたはトラックの高さと希釈に影響を与える。
 これら3つの基本パラメータの組み合わせが、LMDによる積層造形部品の層の高さに直接的に影響を与える。最適な処理条件において、層の高さが安定すれば、造形プロセス全体の安定性が増し、より品質の高いプリント部品が得られる。
 粉末噴射によるLMDプロセスが適用できる、宇宙探査分野の興味深い用途の1つが、ロケットエンジンの推力室の延長ノズルである。当社は、LMFでプリントしたGRCop-42製の銅ノズル部品の上に、ニッケル基超合金718を使用することにより、この構造のサンプルを作成した。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/03/042-044_ft_additive_manufacturing.pdf