高速トラッキングハイパースペクトルソリューション

ウーター・シャルル

使いやすく低コストでコンパクトな産業用ソリューションとして、チップの集積化がハイパースペクトルイメージングの可能性を最大限に引き出すと見られている。現在、ハイパースペクトル動画を中心にエコシステム全体が出現している。

ハイパースペクトルカメラは、物体から反射された光を多数の狭いスペクトルバンドに分割し、それらを個別に取り込んで処理し、シーン内の各ピクセルのスペクトルシグネチャを記録する。このシグネチャは、人間の眼がとらえる赤・緑・青の画像よりもはるかに豊かなものだ。各分子は光と特定の方法で相互作用し、スペクトルフィンガープリント(指紋)を生成するため、画像内の物質を比類なく特定ができる。
 この固有のフィンガープリントは、あらゆる種類の材料や物体の識別や分類に優れた価値を発揮し、産業工程のさらなる自動化に不可欠だ。例えば、橋の構造要素の腐食を判明できる。
 ハイパースペクトルカメラの最も一般的な実装方式は「プッシュブルーム」と呼ばれるもので、数秒から数分かけて、ライン上のシーンを1ラインずつスキャンするものだ。さらに、ハイパースペクトルカメラは、ガラス内の高価で重い高精度光学系をはじめ多数の単機能部品を、手作業で組み立てて作製される。慎重なアラインメント(位置合わせ)とキャリブレーション(ずれの調整)が必要となる。このような実装形態であることから、ハイパースペクトルデータを実際の産業ソリューションにキャリブレーション、補正、適用できるのは、ハイパースペクトルイメージングの専門家のみということになる。
 プッシュブルーム方式はベルトコンベアのような一定動作の状況では素晴らしく機能するが、カメラやシーンのように自由に動く状況では困難が伴う。探査ロボットや自由に飛行するドローンに搭載された検査用カメラならどうだろうか。このような状況では、リアルタイムの変化を観察するために、フレーム全体を、できれば動画速度でスキャンする必要がある。例えば、ロボットが瓶からランダムに品物を取り出す場合、各動作の後に新たな判断を下すために写真を撮り続けなければならない。毎秒30フレームレートの速度で画像が更新される場合、ハイパースペクトル動画になる。今日、ハイパースペクトル動画は、品質検査、選別、材料検出など、さまざまな産業分野で利用可能になってきている。では、どのように実現可能になったのだろうか。その答えは「チップ技術」だ。

集積チップでのハイパースペクトルイメージング

ベルギーのimecは、CMOSベースのインフラストラクチャーとクリーンルームでのプロセス技術を用いて、干渉ベースの光学フィルタをウエハレベルで構築し、イメージセンサのピクセル上に直接蒸着してパターニングする
ことにより、ハイパースペクトル機能を集積化したチップを開発した。このアプローチは、重要な競争優位をもたらした。集積されたイメージセンサは、汎用コンピュータチップと同等のコストで大量生産が可能なのだ。また、小型であるため、標準レンズ付きの通常のカメラに挿入できる。このようなカメラなら、ドローンや小型ロボットに搭載するのに適している。
 ハイパースペクトル用チップは、従来のスキャン技術の精度とさらなる利便性を兼ね備えており、シーンの高速リフレッシュレートを実現する。このチップでは、毎秒最大2880ラインをスキャンできる。これは2048×
1088ピクセルの視野画像を、日中の環境では約30fps、マシンビジョン用途で通常使用されるような高い照明レベルの環境では最大340fpsの速度でスキャンすることに相当する。非常にコンパクトで信頼性が高く、費用対効果の高い、ハイパースペクトル機能をチップに搭載できることは、この種のイメージングを新しい市場に導入できる鍵となる。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/03/034-037_ft_hyperspectral_imaging.pdf