臨床デバイスの改良を支えるバイオイメージングの進展

ジャスティン・マーフィー

ラマンベースの原理を活用することで、より高感度かつ高速なバイオメディカルデバイスの実現に近づくことができる。

新たなラベルフリーの非侵襲的手法であるコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡は、既存の手法よりもさらに迅速かつ効率的に、生体サンプルの画像とヒト組織・細胞の化学成分を取得できる。その可能性は?疾患診断のためのより効率的な臨床デバイスだ。
 伊ミラノ工科大(Politecnico di Milano)の物理学准教授であるダリオ・ポッリ氏(Dario Polli)の研究チームは、ウマニタス研究病院(Humanitas Research Hospital)と、イタリア学術会議(Italian National Research Council)の遺伝・生体医学研究所とフォトニクス・ナノテクノロジー研究所と共同で、CARS顕微鏡と技術を開発した。この技術は、ラベルフリーのモダリティや化学的特異性、高速といったラマンベースの利点を利用している。

標準手法を超える

ラマン分光法はラベルフリーで非侵襲的な化学分析の標準的な手法であり、細胞や組織といった生体サンプルの振動スペクトルがわかり、化学成分を同定するためのユニークな特徴を作成する。
 生体サンプルに対するラマンイメージングの最も単純なアプローチでは、準単色の可視レーザ光または近赤外レーザ光を試料に照射する。また、同時に放射されて振動情報を持つ非弾性散乱スペクトルを測定する。「しかし、この技術では散乱弾面積が非常に小さいため、1ピクセルあたり1秒程度という長い取得時間が必要となり、高速イメージングができない」とポッリ氏は言う。
 CARS技術はこの制限を克服し、数けたレベルで高速化する。焦点面で分子をコヒーレントに励起させるためである。ポッリ氏の手法では、ポンプ光とストークス光という2つの超短パルスレーザと生体サンプルの相互作用を利用し、レーザビームによって分子がどう振動するかという情報を得ることができる。
 生体サンプルのイメージングに使われる標準的な手法には、他に蛍光顕微鏡や自発ラマン(SR)散乱顕微鏡がある。
 蛍光顕微鏡は高感度な高速イメージング技術だが、化学的に特有の蛍光マーカーを必要とする。マーカーの添加は、調べたい細胞や組織に強い刺激をもたらして生体機能に干渉する可能性がある。このような場合に、蛍光マーカーが不要なラベルフリー技術であるSR顕微鏡が有効とされる。
 「SR顕微鏡によって生体組織内の多くの生体分子を選択的に識別できる」と、ミラノ工科大の博士課程学生であるフェデリコ・ヴェルヌッチョ氏(Federico Vernuccio)は話す。しかし、欠点も述べる。「非常に遅く、3D断面機能がない」。

欠点を克服する

CARSは3次非線形工学プロセスであるため、蛍光・SR技術の制限を克服し、共焦点開口部を必要としないラベルフリーな3D断片を作成できる。また、試料面で分子をコヒーレントに励起することでSR顕微鏡よりも高速に試料をイメージングできる。
 CARSシステムは2MHzレートで動作する。これは、標準的なシステムよりもはるかに小さい繰り返し周波数だ。これにより連続する2つのパルス間に0.5マイクロ秒の時間遅延が生じ、システム内の熱エネルギー散逸の時間が確保され、最終的に光熱損傷が低減される。
 フィンガープリントの振動領域全体をカバーするような広帯域で、赤方偏移したストークス光を発生できることも利点である。ここでは、フォトニック結晶ファイバではなくバルク結晶中の白色光スーパーコンティニウム(WLC)発生を利用する(図 1)。バルク媒質中のWLCはよりコンパクトで堅牢、シンプルであり、アライメントの影響を受けないため、さらにシンプルな技術ソリューションになると、ポッリ氏は解説する。
 彼は、「WLCはスペクトル成分の強度に高い相互相関があり、パルス間の変動が小さく、ポンプレーザ光源と同等の優れた長期安定性がある」と話す。「加えて、焦点における平均出力がサンプル劣化によって制限されることを考慮すると、繰り返し周波数が小さいことでパルスエネルギーとピーク強度がともに高くなり、光学効果の非線形性によって、より強いCARS信号を生成する」。

図1

図1 2MHzの繰り返し周波数を採用したことで、バルク結晶中の白色光スーパーコンティニウムを用いてフィンガープリントの振動領域全体をカバーするような広帯域で赤方偏移したストークス光を発生できる

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/03/030-032_ft_bioimaging.pdf