Laser Focus World誌、2022年度イノベーターズ・アワードを発表
Laser Focus World誌は5年連続で、フォトニクス市場における独自性と革新性に優れた技術、製品、システムを表彰するInnovators Awards Programを実施した。
技術について執筆してきた筆者のキャリアにおいて、さまざまな技術の仕組みとそれがもたらす新たな価値をもっと知りたいという筆者の欲求を掻き立てるものは常に、イノベーションに対する渇望だった。今年も毎年恒例のLaser Focus World InnovatorsAwardsの選考プロセスを開始するにあたり、非常に多くの企業から応募があったことに勇気づけられた。成長著しい分野やますます進化する分野を対象とした、多数の素晴らしいイノベーションが寄せられた。
受賞者の選定にあたり、複数の審査員が、他の審査員の評価を見ずに各応募作品を評価するという、先入観を排除した審査プロセスを採用した。この方法によって、各作品に対する平均評価によって作り上げられる潜在的な偏見を取り払うことができた。個々の審査員の視点は多種多様であったにもかかわらず、意外にも多くの評価が審査員全体で一致する結果となった。
無秩序に広がるこの業界を築き上げたのは、絶えずイノベーションを生み出す献身的な取り組みである。フォトニクス業界が引き続き拡大し、潜在的用途が進化するにつれて、業界の前進に究極的につながる、一定レベルのイノベーションが常に登場することになる。この業界全体で生み出される多くの製品が、どれだけ多くの他の技術に力を与えるかと考えると、イノベーションを創出するそうした献身的な取り組みがどれだけ重要であるかがわかる。
すべての受賞者に祝意を表する。今回の受賞は努力の賜物である。
プラチナ賞受賞者
米コールドクオンタ社(ColdQuanta)
RF磁場感度が20nV/cm/√Hz未満という先進的なRFセンサヘッドは、SHFバンドにおいて実証及び試験されている。これは、量子技術に基づく画期的な技術である。センサは、サイズがRF周波数に依存せず、レーザ周波数チューニングによって広いスペクトル範囲をカバーすることができる。検出は分光法に基づき、その基本的限界は熱ノイズを下回っている。センサは、20dB以上という高い偏光消光比(Polarization Extinction Ratio:PER)と、1Hz未満という高い周波数分解能を備える。原子ベースのセンサは、ユニバーサルで校正を必要とせず、試験や計測用途に利用できる。
米エドモンド・オプティクス社(Edmund Optics)と独ウルトラファスト・イノベーションズ社(UltraFast Innovations)
極端紫外(EUV)アト秒多層膜ミラー( Extreme Ultraviolet( EUV )Attosecond Multilayer Mirror)は、アト秒EUVレーザパルスのステアリング、集光、整形に使用される。原子的にスムーズなコーティング層で設計・製造されたこのミラーは、波長とスペクトル位相の正確な制御を、ますます多くの応用分野において高い効率で行うことを可能にする。アト秒科学は、超高速レーザの限界を押し上げている。ウルトラファスト・イノベーションズ社とエドモンド・オプティクス社が提供するこのアト秒ミラーは、高次高調波発生(High Harmonic Generation:HHG)、自由電子レーザ (Free Electron Laser:FEL)、その他の量子光学アプリケーションに基づく、アト秒パルスの生成と整形に理想的である。
アト秒研究に携わる多数の科学者との密接な協力、コーティングパラメータの高度なシミュレーションと最適化、イオンビームスパッタリングによって、ウルトラファスト・イノベーションズ社は、10〜1000のコーティング層からなる、業界で最も原子的にスムーズな多層アト秒コーティングの開発に成功した。EUVアト秒多層膜ミラーは、波長19nm(65eV)を中心として1.8nmのバンド幅を持つ、330アト秒のパルスに対応している。38%のピーク反射率は、EUVアト秒レーザとともに使用するものとして業界最高水準である。
米メタレンズ社(Metalenz)
2022年1月に発売された「Polar Eyes」は、メタレンズ社の新しい偏光技術プラットフォームである。
フルスタックでシステムレベルのこのソリューションは、物理学と光学、ソフトウエアとハードウエアを組み合わせて、次世代スマートフォンや民生電子機器から新しい医療や自動車の用途に至るまでのあらゆるものに力を与える。フルストロークの偏光センサを5000分の1以上縮小したこのモジュールは、世界に対する私たちの視界や相互作用を変える力を、ポケットの中に実現する。PolarEyesは、高度な光学センシングを可能にして、プライバシー機能を改善し、道路の安全上の危険性を運転者に警告し、在宅医療をより利用しやすいものにする。
PolarEyesは、偏光によって物体を区別することにより、形状のコントラストを強調したり、物体の分子組成を明らかにしたりするなど、シーンに関するはるかに詳細な情報を提供する。省スペース設計により、1つのイメージセンサを備える単一のメタ光学系に複数の機能が集約されている。例えば、「iPhone」のFace IDシステムには、3つの曲面レンズが使われている。顔に投射した赤外光をドットのグリッドに分割するための1枚の回折レンズと、顔に投射するレーザをコリメートするための2枚の屈折レンズである。これらのモジュールの中には、消費者が求めるコンパクトな端末サイズにスマートフォンのカメラを収めるために、光学パスをミラーで折り曲げることによってスペースを節約しているものがある。これによって学システムは、サイズが大きく高額になってしまう。メタレンズ社のPolarEyesは、ハイエンド端末だけでなくすべての消費者デバイスに、セキュリティの高い顔認証を広く搭載することを可能にする。
独スキャンティネル・フォトニクス社(Scantinel Photonics)
スキャンティネル・フォトニクス社は、次世代固体FMCW(周波数変調連続波)センシングの開発に取り組んでおり、同社独自のFMCW技術を使用してデータ情報の新たな次元を提供することに注力している。同社は、FMCW LiDARで距離と速度を測定する技術を自律型モビリティ分野に適用することを目指している。スキャンティネル社のFMCWセンシングは、(人間の目に対する高い安全基準を満たす)波長1550nmを採用し、 固体Optical Enhanced Array(OEATM)走査システムを装備して、非常に競争力の高いコスト水準で、300mを超える検出距離を実現する。
スキャンティネル社のFMCW LiDAR技術は、従来のToFライダと比べて以下のような大きなメリットを持つ。
・ 検出距離が長い(反射率10%で300m)
・ コヒーレント検出を備え、干渉(日光、他のライダシステム)に対する耐性が高い
・ 各測定ポイントにおける速度情報を瞬時に直接提供する
・ 高度なOEATMシステムによって、卓越した固体走査結果を提供する
・ モジュール式の柔軟なアプローチによって、任意の用途のエコシステムに適応する
・ フォトニック集積によって、ライダシステムのコスト、サイズ、重量を大幅に削減することが可能
・ 標準的なCMOS技術に基づく量産拡張性を備える
スキャンティネル・フォトニクス社は、同社の先進的なFMCWセンシング技術を保護するために、30件を超える特許を申請済みである。
独トルンプ・フォトニック・コンポーネンツ社(TRUMPF Photonic Components)
ViBO( VCSEL with integrated Backside Optics)技術は、トルンプ社の高性能VCSELに基づいている。特許取得済みの独自のレンズ形状が砒化ガリウム(GaAs)基板に直接エッチングされている。ViBOは、モノリシックに統合された微小光学素子を備え、本質的に目に安全な、先進的な3Dセンサシステムに対するカスタマイズされた照明プロファイルを作成する際に、他にはないメリットを提供する。コンポーネントは、SMDアセンブリを使用して、事前に形成されたコンタクトを介してPCB(プリント回路基板)やドライバICに簡単に取り付けることができる。全体的なシステムに簡単に組み込めるように、フォームファクタは大幅に縮小されている。
ViBOは、そのサイズと追加機能の搭載によって、小型化の需要に対応している。
金賞受賞者
独3Dマイクロマック社(3D-Micromac AG)
3Dマイクロマック社の「micro VEGA xMR」は、モノリシックな磁気センサを製造するための初めての産業規模の選択的レーザアニールシステムである。オンザフライのスポット及び可変レーザエネルギーによる、非常に柔軟で高スループットのツール構成設定を備え、巨大磁気抵抗(Giant Magnetoresistance:GMR)センサとトンネル磁気抵抗(Tunnel Magnetoresistance:TMR)センサの両方のプログラミングに加えて、磁力方向、センサ位置、センサ寸法を容易に調整することが可能で、磁気センサ製造に対する理想的なソリューションとなっている。
米アスペン・システムズ社(Aspen Systems)
レーザは従来、レーザに供給される循環水を冷却する冷却回路からなる液冷システムを使用して冷却されてきた。これらのシステムは、保守と信頼性の問題を抱えることがよく知られている。例えば、水供給の維持、ポンプや水路の水漏れの補修、漏れによる繊細なサポート電子機器やレーザそのものの破損といった問題がある。これらの保守上の問題に加えて、ポンプは一般的に、この形式の冷却器において最初に故障するシステムである。
アスペン・システムズ社が開発した直接冷媒冷却方式は、ある顧客の表現を借りると、レーザ保守担当者が配管工になる必要性を取り除くという。冷媒を冷却プレートに直接流すため、水の循環路、ポンプ、貯蔵タンクは不要である。これによって冷却システムのサイズが劇的に縮小するとともに、保守の懸念は実質的に解消される。さらなるメリットとして、約40%の効率改善がエンドユーザーにもたらされる。可変速圧縮機を使用することにより、レーザそのものの制御電子機器から直接、冷却システムを調節することができる。つまり、レーザ強度の増加に伴って、信号によって圧縮機の速度を増加させることにより、所望の温度が維持される。その結果として最終的に得られるのは、レーザ電子機器に簡単に統合可能な軽量パッケージに収容された、信頼性が高くてサイズが小さい、堅牢なシステム設計である。
リトアニア/エクスプラ社(EKSPLA)
この新しいフェムト秒レーザは、革新的な冷却システムを採用し、産業用フェムト秒レーザの新たな信頼性基準を設けるものである。「FemtoLux30」は、レーザヘッドからの放熱に水を利用する代わりに、革新的な直接冷媒冷却(Direct Refrigerant Cooling:DRC)方式を採用している。これは、冷却に水は使われないことを意味する。DRC方式は、最大限の放熱率と高い温度安定性を備え、小型化と軽量化を実現する。水冷システムとは異なり、DRCシステムは、冷媒循環システム全体が完全に密閉されているため、定期的な保守は不要である。フェムト秒レーザFemtoLux 30は、パルス幅が350fs未満から1psの間で調整可能で、パルス繰返し周波数はシングルショットから4MHzの広い範囲でAOM制御可能である。200kHzの繰返し周波数で、90μJを超える最大シングルパルスエネルギーが達成されている。バーストモードで動作する場合は250μJを超える最大エネルギーを達成し、さまざな材料に対する、さらに高いアブレーションレートと加工スループットを保証する。
FemtoLux 30は、ディスプレイやマイクロエレクトロニクスの製造、ガラス、サファイア、セラミックなどの脆性材料の微細加工やマーキングの他、さまざまな金属やポリマーの最高品質の微細加工に最適なツールである。
米ギガジョット・テクノロジー社(Gigajot Technology)
Quantaイメージセンサ(QIS)に関する10年を超える研究によって誕生したのが、ギガジョット社が2021年5月に発表したQIS「GJ01611」である。米国立科学財団(National Science Foundation:NSF)、NASA、米エネルギー省(DoE)の助成で一部の費用が賄われたこの研究により、ギガジョット社はイメージセンサの性能を飛躍的に高めることに成功した。同社は70件を超える特許を取得し、その知的財産がQISの実現につながった。
このQISは、市場をリードする低い読み取りノイズによって、室温での光子カウントと光子数識別計測(photonnumber resolving)が可能で、画期的なイメージング性能を科学業界にもたらす。光子カウント/光子数識別計測をフルスピードで実行する能力に、QISのハイダイナミックレンジ機能を組み合わせることにより、科学者が切望してきた新たな能力が実現される。
リトアニアのライト・コンバージョン社(Light Conversion)
「HARPIA-TG」は、キャリア拡散係数と寿命を測定するためのグレーティング方式の過渡吸収分光器である。非侵襲的で非破壊的なポンプ・プローブ分光器として動作し、レーザ干渉によってサンプルを励起した後に、過渡グレーティングを生成し、空間的屈折率変調を記録する。遅延ビームによって、キャリア拡散に対応する変調減衰をプローブする。グレーティング間隔の自動変更によって、キャリア伝搬のダイナミクスに関する詳細情報を提供する。
内蔵型光パラメトリック増幅器(Integrated Optical Parametric Amplifier:I-OPA)を備えるCARBIDEまたはPHAROSレーザを併用することにより、高度な測定及び分析ソフトウエアによる完全自動のコンピュータ制御が可能な、コンパクトなシステムが構成される。これによってユーザーは、サンプルを挿入して測定を開始するだけで、わずか数分で拡散係数を取得することができる。
デンマーク/NKTフォトニクス社(NKT Photonics)
「Koheras HARMONIK」は、高出力の周波数変換レーザである。
新しいKoheras HARMONIKファイバレーザシステムは、ルビジウム、ストロンチウム、バリウム、イッテルビウムの波長に対応したいというニーズに応えることができる。Koheras HARMONIKは、非常に安定性に優れたモードホップフリーの単一周波数を出力する、狭線幅のファイバレーザシリーズである。量子アプリケーションに必要な正確な原子遷移で、高出力で狭線幅の光を提供する。
量子コンピューティング、センシング、計測、通信のための高品質な光を求めているのであれば、この新クラスのレーザを試してほしい。本質的に堅牢な単一周波数設計で、低位相で低強度のノイズ、高いOSNR、高い光出力が実現されている。
また、産業用途に対応する高い信頼性を備えている。
NKTフォトニクス社
「SuperK CHROMATUNE」は、世界最高レベルの超広帯域波長可変レーザで、400〜1000nmという比類ない波長可変域を備える。
CHROMATUNEは、優れた信頼性と数千時間の寿命を保証するファイバレーザである。メンテナンスやサービスを必要とせず、アライメントや調整も不要である。簡単に使用でき、作業に集中することができる。
NKT社は、次のような用途を対象にこのレーザを設計している。
・ 顕微鏡法
・ 分光法
・ 蛍光法
・ 寿命イメージング
・ 光学特性評価
・ プラズモニクス&メタマテリアル
加オズ・オプティクス社(OZ Optics)
光ファイバの剛性と干渉法の本質的な安定性を組み合わせた、この新しい広帯域超量子もつれ光子源は、堅牢で信頼性の高い製品として提供されている。室温で動作し、ファンレスのポータブルなエンクロージャにパッケージ化されている。CバンドとLバンドをカバーする広い光子対帯域で、周波数と偏光の自由度における同時で独立したエンタングルメントが可能である。
オズ・オプティクス社の超量子もつれ光子源は、現代的な防衛及び宇宙用途を対象とした、高次元量子情報処理と量子超密度テレポーテーションを可能にする、次の3つの重要な要件を満たす点において、他とは一線を画している。
1.信頼性の高いオールファイバ設計でアライメントフリーの光源
2.任意のポータブルシステムに簡単に組み込むことのできる、コンパクトなフットプリント、軽量ファイバ、高品質な性能
3.ハイパーエンタングルメント(超量子もつれ)の生成と、衛星間量子リンク技術向けの高い輝度とかつてないレベルの忠実度
米ラディアント・ビジョン・システムズ社(Radiant Vision Systems)
イメージング色彩輝度計「ProMetricI61」は、数百万もの輝度及び色度値を、61メガピクセルの単一のフルカラー画像で取得し、2秒未満で測定を完了する。有機EL、マイクロLED、LEDなどのさまざまな光源の測定において重
要となる、CIE等色関数との一貫した整合性が、三刺激値カラーフィルタによって保証される。
(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2023/03/006-018_ft_innovators_awards.pdf