光ファイバの完全波動マルチフィジックスシミュレーション

水山 洋右

光ファイバの完全波動マルチフィジックスシミュレーションには、高度なモデリングとシミュレーションの技術が必要である。

光ファイバは、インターネットをはじめとするデジタルネットワークのバックボーンを形成する技術であり、現代の通信インフラストラクチャにおいて主要な役割を果たす。部品・製品のレーザ切断やレーザマーキング、レーザによる腫瘍切除などの産業用途や医療用途にも不可欠である。
 光ファイバはコアとクラッドから構成されている。構造は単純であるが、見た目ほど単純ではない。光ファイバの光源には、ほぼ必ずレーザが使われており、通常は特定の方向に直線偏光される。波長板、ポッケルスセル、ファラデーアイソレータ、ブリュースターウィンドウなどの偏光光学系を使用して、さまざまな方法でレーザビームを操作する。
 光ファイバによくある欠陥で意図せぬ望ましくない偏光回転が予測できない方法で生じる。これによって偏光光学系でレーザビームを配信中に電力が損失される。例えば、光学材料にはわずかな複屈折があり、方向によって屈折率が異なる。また、製造上の制約により、ファイバコアがわずかに楕円形やテーパー状になることや、使用時に曲がることがある。このような複雑さを持つ光ファイバの開発には、完全波動マルチフィジックスシミュレーションが必要となる。

ファイバシミュレーション

光ファイバのシミュレーションを行う場合、一般的にはまずファイバ断面の2D固有モード解析を行う。この種の解析では、所定の条件下でファイバに存在しうる固有モードを予測することができる。偏光現象によって出口モードは入力モードと同じになることはほとんどない。モードがファイバの長さにわたってどのように伝搬するかを理解するには、3Dシミュレーションが必要である。
 3Dシミュレーションでこのような伝搬を予測する方法には、ビーム伝搬法(BPM)な ど、いくつか存在する。BPMは数値計算の負荷が比較的軽いため有用であるが、マクスウェル方程式の近似式を用いており、光はベクトル場であるにもかかわらず、通常はスカラー場について解く。ベクトル場の記述を必要とする現象は、この方法ではシミュレーションができない。ベクトルBPMもあるが、やはり近似式を用いるため、数値計算コストがかかり使いにくい。
 あるいは、COMSOL Multiphysicsソフトウエアのアドオンである波動光学モジュールでは、マクスウェル方程式をビームエンベロープ法で解くことができる(1)。これは有限要素法に基づく手法である。波動ベクトルで表される伝搬方向があらかじめある精度で事前に分かっている、という特定の条件を満たせば、極端に微細な有限要素メッシュや理論的な近似を使用せずに、大きな領域に渡る光学部品の厳密な3D計算が可能な手法である。光ファイバではファイバ内の屈折率差によってモードフィールドが導かれ、ファイバの延長方向に伝搬方向があらかじめ幾何学的に分かっているため、この条件を満たす。完全な3Dシミュレーションを行う前に、励起境界と出射境界における断面方向のビーム形状を決定する必要がある。このため、励起境界と出射境界のそれぞれに対し、数値計算手法として境界モード解析を実行する。
 横モード解析とも呼ばれる境界モード解析は、境界上のベクトル値のモード形状を計算でき、電界と磁界のすべての成分が含まれる。これを行った後に横波数を計算すると、伝搬定数が解析的に算出され、3Dシミュレーションの入力パラメータとして使用される。ビームエンベロープ法の効率が良く、光ファイバとの相性がよいことで、長いファイバでも計算量が比較的少なく済む場合が多い。図1は、光ファイバのコアがテーパー形状であり、モードフィールドがファイバに沿って伝搬する際に初期の直線偏光が回転するという技術的問題を強調して示している。このシミュレーションは、波動光学モジュールの専用ビームエンベロープ法のインターフェースを使って行われた。偏光回転現象は、スカラー近似では説明できず、レーザ電界と光学部品の材料との相互作用により、純粋にベクトル値で表される現象である。そのため、光ファイバの解析には、完全波動シミュレーションが必要である。

図1

図1 光ファイバの端では、出力電磁界は入力電磁界と同じではない。出射波を吸収するために、一般的な吸収性の人工材料が用いられる(別名:完全整合層)。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/12/030-032_ft_simulation_and_modeling.pdf