計測学による没入型現実技術の課題の解決
没入型現実デバイス用の計測ツールは、開発と試作、性能評価、製品品質管理を支援する。
わずか5年前には、没入型現実技術が飛躍的に成長するという予測は懐疑的に見られていた。現在、情報豊富な3Dディスプレイの対話的操作が、2D画面を使用するよりもはるかに優れていることを、さまざまな業界の専門家が認識している。インタラクティブなデジタル通信におけるこの革新が、今後どのように進化するかはまだ不透明だが、その到来に疑問の余地はない。
没入型現実またはエクステンデッドリアリティ(extended reality:XR)は、完全に仮想的な視界を構築する仮想現実(VR、図 1)、実際の視界にデジタル情報を追加する拡張現実(AR)、現実とデジタルの世界を完全に融合する複合現実(MR)の総称と定義される。
新たなXRソリューションは、エンターテインメント、スポーツ及び娯楽、エンタープライズ実現、防衛、医療の分野のさまざまな用途において、既に影響をもたらしている。職業訓練や能力開発プログラムでは、現実世界で実際に体験するには、コストがかかりすぎたり、危険すぎたりする環境を、仮想的に体験することを可能にしている。また、産業分野の製造や設計にも変革をもたらしており、ラピッドプロトタイピングによって設計から市場投入までを迅速化し、プロセス改善によって生産性、効率、精度を向上させている。
没入型現実を推進する技術
XRには、デジタル光学没入型ディスプレイ(Digital Optical Immersive Display:DOID)がハードウエアとして必要で、そうしたデバイスは、市場の拡大に伴い、優れた視覚品質、信頼性、処理能力を提供することに加えて、軽量で快適で使いやすいことが求められるようになっている。
デジタル光学ディスプレイデバイスに使われる、無数の部品やコンポーネントを小型化することが、没入型現実の利用増加を支える基盤であり、重要な推進要素である。ますます小さなマイクロ光学系や統合型光学アセンブリ、MEMSセンサ、マイクロLEDディスプレイをはじめとする、多数の統合型部品やコンポーネントを使用することに、焦点が置かれている。XRシステムには、3Dオブジェクトの錯覚を空間に作り出すための投影システムだけでなく、その他にも多数のデバイスがアイトラッキング、測距、環境センシング用に搭載されており、その多くが光学デバイスである。
没入型現実の特筆すべき側面は、光を目へと導くために、非従来型のコンポーネントを搭載する革新的な光学システムが、おそらくは導波路構造やホログラフィックメタ表面とともに、広く活用されていることである。没入型現実の成長に歩調を合わせるという前例のない要件が、マイクロ非球面やフリーフォームの光学系に課されており、特に品質管理と設計検証の面で、メーカーの大きな課題となっている。そこで、その要件を満たし、イノベーションを支えて促進する役割を果たすのが、計測学である。
フリーフォーム光学系と導波路
没入型現実デバイスには、広い視野と大きな「アイボックス」の両方が必要である。アイボックスとは、許容できる映像視野が得られる目の位置の範囲のことで、XR光学系の光学設計における重要なパラメータである。アイボックスが大きいほど、現実に近い優れたユーザーエクスペリエンスが得られる。シミュレーション現実は、周辺視野と目の動きの全範囲を網羅する必要があり、従来の幾何光学系を使用する実際のウェアラブルデバイスでは、これは実現できない。
回転対称性を持たず、コーニック定数では表現できない可能性がある、フリーフォームの光学面形状は、興味をそそる光学設計概念から、宇宙/防衛から民生エレクトロニクスに至るまでのさまざまな用途に対する実用必需品へと進化を遂げている。非常に高い光学性能に、インタラクティブなウェアラブル技術の人間工学的な制約が組み合わされる没入型現実に対しては、軸外方向の広い視野における回折限界性能が設計に求められる場合が多い。フリーフォーム光学系は、その収差を補正するための唯一の手段である場合が多く、複数の課題を計測技術にもたらす。フリーフォーム光学系は、軸対称性や軸外の対称性を持たない場合が多いため、その設計、測定、製造は難しい。
XRの光学設計には一般的に、平面導波路構造が含まれている。これは、画像の伝送と結合に重要なものである。光学導波路は、望ましい特定の経路に沿って伝播する光波を制限する構造である。平面導波路は、MR光学システムにおけるイメージング瞳の再現に一般的に使用されており、それによってアイボックスは大きく拡大される。平面導波路は、屈折率を高めた透明薄膜として基板上に作製されるか、2つの基板層の間に埋め込まれる場合が多い。
DOIDシステム用の多波長平面導波路は、複雑な光学構造を持ち、フリーフォーム光学系と同様に、さまざまな計測上の課題をもたらす。
(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/12/026-028_ft_optical_metrology.pdf