単極性テラヘルツ波エミッタの量子コンピューティングへの新たな一歩

サリー・コール・ジョンソン

単極性テラヘルツ波エミッタ(放射源)は事実上、従来のコンピューティングを加速させ、室温での量子情報処理を実現し得る。

米ミシガン大と独レーゲンスブルク大を中心とする研究チームは、光波の固有の対称性をうまく利用して、「不可能な」単極性テラヘルツ波エミッタを構築した。このエミッタで、さらに非対称なテラヘルツパルスが実現し、半導体量子ビットを制御するよう調整できるようになる。
 「コンピュータから携帯電話に至るまでのアプリケーションは、1秒間に約10億回という非常に高速なスイッチングを行う電子機器で動作している」と、ミシガン大の電気工学及びコンピュータサイエンスのマッキージョ・キラ教授(Mackillo Kira)は言う。「しかし、固体中の電子量子情報は、通常、1万倍の速さで失われるため、これまでのところ、日常の電子機器では、量子情報処理の真の力を利用できなかった」。
 電子スイッチング固有の遅さについては、非常に高速な電磁波を使用して電子量子状態を切り替え、特性評価し、制御することで克服できる。
 光波は電子機器の約100万倍の速度で振動し、次世代装置はペタヘルツ級の速度(毎秒最大1000兆回)に到達する可能性がある。このような背景から、理想的な量子電子スイッチパルスは、正(または負)のみの半周期振動で、最小の時間(半周期)と最大の効率(往復振動がない)で量子状態(量子ビット)を反転させるものである。
 テラヘルツ光は、赤外線(IR)とマイクロ波(MR)の中間に位置し、必要な速度で振動をする一方で、その波形はこれまでは「不可能な」問題であった。純粋に正または負のみの波は、物理的にあり得ない。すべての波は、正と負の振動の和がゼロになるように構成されている。
 レーゲンスブルク大物理学のルパート・フーバー教授(Rupert Huber)は次のように述べている。「我々は長い間、この波形の制限を回避する方法を見つけ、最終的にペタヘルツ光波エレクトロニクスを駆動できる最短の波形を作りたいと考えてきた。この志は、非常に鋭い高振幅の正の光波のピークが、2つの長い低振幅の負のピークに挟まれている単極性波の発見につながった。
 正のピークは電子状態を切り替えたり移動させたりするほどの強度を持つが、負のピークはほとんど影響を及ぼさない」。

テラヘルツエミッタの構築

研究ではまず、わずか数原子薄のナノ薄膜のスタックの開発から着手した。これは、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)などの異なる半導体材料を、ガリウムヒ素アンチモン(GaAsSb)上にエピタキシャル成長させたものである。
 電子と正孔の動きを利用して、テラヘルツ放射を設計した。電子と正孔は、基本的に、半導体中で電子が移動するときにできる空間である。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/12/022-023_ft_terahertz_sources.pdf