ライフサイエンス分野に改善をもたらすレーザエンジン

ジョン・アボット、マティアス・シュルツェ、キム・ネッツェバント

多波長レーザエンジンは、アライメントと安定化済みのフリースペースの集光光学系、または統合型ファイバデリバリシステムを、レーザ光源に組み合わせたもので、蛍光顕微鏡の利用者やフローサイトメトリーのOEMによるアライメントと統合の作業を簡素化する。

ライフサイエンス分野で今日適切に活用されている、フォトニクス手法のほとんどが、何らかの形の蛍光検出に基づいている。その例は、生きた細胞のイメージングに使われる共焦点顕微鏡法や、臨床用の血球計数装置を支えるフローサイトメトリー、DNAシーケンサなど、多岐にわたる。
 これらの用途では、複数の励起波長を使用することにメリットがある場合が多い。蛍光顕微鏡法では、それによって、従来型の色素、遺伝子的に発現する蛍光タンパク質、初期細胞含有物を含む、さまざまな対象物の励起が可能になる。神経科学分野の光遺伝学手法では、1つの波長を使って対象ニューロンの活性化と非活性化を行い、2つめの波長で、相互に接続されたニューロンの応答を、蛍光タンパク質インジケータによってマッピングする。この方法により、活性化チャンネルとイメージングチャンネルの間のクロストークは最小限に抑えられる。フローサイトメトリーでは、マルチパラメータの計数/分類に、複数の波長が使われる場合が多い。これは、単一の装置による細胞やその他の生物学的粒子の解析に、波長分離された蛍光色素信号が使用されることを意味する。
 互いに全く異なるこれらの用途のすべてに、複数のレーザビームの集光、成形、位置決めをミクロン以上の精度で行うという共通のニーズが存在する。このニーズに対応するために、安定性に優れたフリースペース集光光学系、あるいは、統合型ファイバデリバリシステムを光源に組み合わせた「レーザエンジン」を使用するケースが増加している。これは、OEMとエンドユーザーの両方に対して、コストを削減し、時間のかかる光学アライメント作業を不要にし、開発時間を短縮し、装置の安定性と信頼性を高める効果をもたらす。

マルチパラメータフローサイトメトリー用のレーザエンジン

レーザエンジンはもともと、フローサイトメータ用に開発されたものである。フローサイトメータは基礎研究において、血球計数や、畜産や養魚用の精液や受精卵の選別に、日常的に使用される装置である。フローサイトメトリーでは、蛍光標識された細胞などの小さな検体が、1つずつ1列に並んだストリームとしてフローセルの中に流される(図 1)。検体は、はしごの段のように長いライン上に成形及び集光された、複数のレーザビームとの相互作用ゾーンを通過する。得られた蛍光と散乱光が収集され、ダイクロイックフィルタとバンドパスフィルタによって波長帯に分離されてから、検出される。高性能研究用装置の中には、100以上の検出器を搭載するものも存在する。
 最初に提供されたレーザエンジンによって、フローサイトメトリー装置の構築者は、複数のレーザ波長に容易にアクセスできるようになった。しかし、これらのレーザエンジンは、単に複数の個別レーザを組み合わせることによって構成されていたため、必然的に冗長だった。各レーザに、個々にコントローラ、インタフェース、機械的筐体があったためである。また、ブレッドボード上に実装されていたため、ユーザーや装置構築者が、調整可能な光学系とマウントを用意してアライメントする必要があった。
 第2世代のレーザエンジンは、OEM装置構築者をまさにターゲットとして開発された。小型化されていて、複数のレーザコアを搭載する。つまり、単一のドライバ回路基板、インタフェース、電源がすべてのレーザで共有されており、その全体が1つのコンパクトな筐体に収容されている。
 この種のレーザエンジンには、ビーム成形と結合機能が搭載されており、各レーザの焦点と向きは、シンプルなネジ(各自由度に対して1つ)の調整によって、個別に制御される。最初に提供された製品は、フローサイトメトリー装置で最もよく使用される波長の中の最大4つ(405nm、488nm、640nmと、オプションで561nm)に対応していた(図 2)。
 研究用装置では現在、2つのレーザエンジンを搭載して、紫外域(UV)から640nmまでの最大8波長を利用可能にするものが多い。これによって、最大で数十種類の異なるデータパラメータの細胞計数を、単一の装置で行うことができる。

図1

図1 フローサイトメータでは、1つずつ1列に並んだフローストリームとして通過する蛍光標識された細胞に、複数の異なるレーザ波長が照射される。得られた蛍光は、異なる波長帯に分離されてから検出される。

図2

図2 第2世代のレーザエンジンは、外装カバー(右下挿入図)を一時的に取り外して、最大4つのレーザ波長をそれぞれ個別に光学調整することができる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/12/018-020_ft_visible_lasers.pdf