広い波長可変性を持つ前例なきテラヘルツレーザ

ヴァレリー・コフィ・ロズィッヒ

量子カスケード励起レーザを用いると、広帯域にチューナブルな新しいクラスのコンパクトなテラヘルツ光源が実現する。

何十年もの間、室温で動作できる強力でコンパクトなテラヘルツ光源を生成する研究が挑戦されてきた。0.3〜10THzのテラヘルツ周波数でコヒーレントなレーザを発振させると、プラスチックや繊維などの素材を傷つけずに安全に通過させ、金属や液体の水を検出できるため、分光、イメージング(画像化)、セキュリティ、レーダなどの用途に理想的である。
 テラヘルツ光源は少々存在し、ある種のスタンドオフ検出やイメージングへの応用が可能である。しかし、そのような光源はかさばり、省電力性に欠け、低温動作が必要とされるため、テラヘルツ無線通信や波長可変レーダには使用できない。さらに、波長可変性にも欠ける。
 2019年、米ハーバード大ジョン・A・ポールソン工学・応用科学スクール(SEAS)の研究にて、量子カスケードレーザ(QCL)による分子ガスの励起が効率的であることが発見された。それは省電力と室温動作という長年のトレードオフを克服し、広帯域テラヘルツ波長で波長可変性を実現するものである(1)。この新しいクラスのテラヘルツ光源のメカニズムは、亜酸化窒素やフッ化メチルなどのさまざまな気体分子の回転・振動の遷移を励起するものである(2)。
 ハーバード大SEASのCapassoグループが率いる複数の研究機関のチームは、最新の研究にて、QCLポンプを用いたアンモニアの発光を予測し、実証した。アンモニアQPMLが、純粋反転(PI)と回転反転(RI)という2つの発振メカニズムを実現し、この発見を導き出した。
 実験装置は、50cm×4.8mmの細長い銅管の共振器で、前方・後方のピンホールに検出器を搭載している(図1)。ハーバード大のポール・シュヴァリエ助教授(Paul Chevalier)らは、米ディーアールエス・デイライト・ソリューションズ社(DRS Daylight Solutions)製の、920〜1194cm-1の中赤外域でチューナブルな外部(EC)共振器型QCLを用いて、アンモニア共振器の励起に成功した。後方チューニングミラーで共振器の長さを調整し、ゴーレイセル検出器で後方ピンホールから全領域のテラヘルツ周波数を収集した。前方のアンモニアガス吸収セルで、目的の回転・振動遷移のチューニングを監視した。

図1

図1 コンパクトなアンモニアQPML(量子カスケードレーザ励起分子レーザ)の模式図。アンモニアを含む50cm×5mmの銅製レーザ共振器と両端のピンホールカプラ、920〜1194cm-1帯域でチューナブル(波長可変可能)な外部共振器型QCL(量子カスケードレーザ)を用いた励起を示す。このアンモニアQPMLレーザでは、0.763〜4.459THzの帯域の24種類の異なるテラヘルツ周波数を、0.45mW以下の出力レベルで生成される。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/12/016-017_ft_tunable_lasers.pdf