シングルモード半導体レーザの大型化と高出力化
60年間にわたって面発光レーザの高出力化を阻んでいた障害が取り除かれ、光通信、レーザ手術、防衛、ライダ(LiDAR)、ロボティクス、さらには量子スケーリングに至るまでのさまざまな用途に対して、より長い距離に対応するさらに強力なレーザが実現される可能性がある。
米カリフォルニア大バークレー校(University of California at Berkeley)の電気工学及びコンピュータサイエンス学部の准教授で、ローレンスバークレー国立研究所(Lawrence Berkeley National Lab)の材料科学部(Materials Sciences Division)の科学者であるブバカール・カンテ氏(Boubacar Kanté)率いる研究者グループは最近、長年にわたる光学分野の課題を解決した。
カンテ氏のグループ(図 1)は、等間隔に小さな穴が開けられた半導体薄膜からスケーラブルなレーザ共振器を作成することにより、レーザ動作から高次モードを体系的に取り除くことに成功した。同氏らはこれを、「Berkeley Surface Emitting Laser」(BerkSEL)と呼んでいる。
「製造上の課題は今後も出現する可能性があるが、面発光レーザの高出力化を60年間阻んでいた障害は、取り除かれた。メーカーは今後、数百台ものレーザを使用する必要はなくなり、十分な出力を持つ1台のレーザで、それらを置き換えることができる」とカンテ氏は述べている。
BerkSELの設計
BerkSELは、InGaAsP(インジウムガリウムヒ素リン)で作られた厚さ200nmの薄膜上にリソグラフィでエッチングされた穴を通して、シングルモードの光を放射することができる(図2)。これらの穴は、ディラック点(Dirac point)としての役割を果たす。ディラック点とは、エネルギーの線分散に基づく2次元材料のトポロジカル特性である(図 3)。
カンテ氏のグループは、高エネルギーのパルスレーザを使用して、BerkSELに対する光励起とエネルギー供給を行い、近赤外分光法に対して最適化された共焦点顕微鏡を使用して、各アパーチャからの発光を測定した(図 4)。
同氏らは、通信波長でのレーザ動作を可能にする半導体材料と構造寸法を選択したが、BerkSELは、穴のサイズや半導体材料などの設計仕様を調整することによって、異なるターゲット波長での発光が可能である。
レーザの発明以来、光学研究者は、レーザ共振器のサイズの増加に伴って崩壊し始める、コヒーレントで指向性を持つ単一波長の光に、光を増幅するための導波路などの外部機構を利用することによって、対処してきた。また、高い出力には長い導波路が必要である。
「レーザ出力を増加するための最善の方法は、表面を利用することである。表面の面積は直線寸法の二乗だからだ。面積を大きくすれば、導波路を利用するよりもはるかに素早く出力を増加させることができる」とカンテ氏は述べた。
カンテ氏は、電磁気学全般に深く関心を寄せており、光に対する量子ホール効果に基づくトポロジカルレーザの概念を、2017年に考案して実証した。この発見が、BerkSELの実現に役立っている。
屈折率をゼロにする
カンテ氏のグループは、共振器のフリースペクトルレンジ(共振器に多数のモードが存在すると考えて、モード間の距離のこと)が複素数であることを示した。つまり、その距離は「実数だが虚数部を持つ」という。現在、レーザ共振器のサイズの増加に伴い、各モードは周波数が近くなり、分離できなくなる。1つのモードがレーザ動作を行うと、共振器サイズの増加に伴って他のモードもレーザ動作を開始することになる。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/12/014-015_ft_semiconductor_lasers.pdf