DNAシーケンシング革命に重要な役割を果たすフォトニクス

ジャスティン・マーフィー

ヒトの遺伝子構成とDNAの完全な地図を手に入れた研究者と臨床医は、これまで不可能だったような疾患特定や治療が可能になっている。

DNAシーケンシング(塩基配列の決定)は、実験室での研究から、がんや他の遺伝性疾患の検査といった実際の臨床応用に飛躍する準備が間もなく整うだろう。
 「その移行は、DNAシーケンシングの未来に向けた大きなテーマである」と、スタンリー・ホン氏(Stanley Hong)は述べる。同氏は国際的なバイオテクノロジー研究企業である米イルミナ社(Illumina)の副社長で、著名なエンジニアかつ光学システム責任者でもある。同社はDNAや遺伝子シーケンシングの手法や技術を開発・試験しており、急速に臨床応用の領域に移行している(図 1)。
 同社はヒトゲノム計画の進行中に設立された。ヒトゲノム計画は1980年代後半から2000年代初期にかけて米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)が主導した国際共同研究プログラムである。この計画では、DNA分子を形成する「塩基」という4種類の化学的構成要素の順序を決定することに焦点が当てられた。約30億塩基対からなり、ヒトを構成して支える根本的なものである。
 シーケンシングを行うことで特定のDNA断片に含まれる遺伝情報が得られると、ホン氏は言う。そのデータから、どのDNA領域に遺伝子が存在し、または遺伝子を制御してオン・オフにするのかがわかる。得られたデータは、疾患を引き起こす可能性のある遺伝子の変化も示すことができる。
 このことからヒトゲノム計画の目標は、ヒトのすべての遺伝子(DNA、RNA、タンパク質を含む)の完全なマッピングと理解を完了することだった。国際的な研究者のチームは、2000年までにその目標の90%を完了させ、わずか数年後に完全に達成した。このことが、生物学者やバイオテクノロジーの専門家を刺激し、その研究をさらに前進させ続けている。

図1

図1 フォトニクス技術はDNAシーケンシングを新たな高みへともたらし続けている。

フォトニクス技術の役割

フォトニクスと光学技術はDNAと遺伝子シーケンシングの中心的存在であると、ホン氏は述べる。彼は例として、フロー細胞のクラスタの研究で使われる高速・高解像度の蛍光イメージングを挙げる。この手法を用いているのが、イルミナ社の合成即シーケンシング(SBS)技術とSBS化学だ。
 これには、蛍光標識された可逆的ターミネータが使われている。可逆的ターミネータは、4種類の個々のdNTP(デオキシヌクレオシド三リン酸)が追加されるごとに画像化される。細胞やウイルスのゲノムの複製をコントロールしながらdNTPの合成や破壊が生じる。dNTPは次の塩基を組み込むために分割される。可逆的ターミネータに結合した4種類のdNTPは各シーケンシングサイクル内に存在するため、自然に競合してバイアスを最小限に抑え、高精度のデータも取得できる。
 SBSは次世代シーケンサーに世界的に採用されている。実際、世界のDNA・遺伝子シーケンシングデータの90%以上をSBSが生成している。SBSは、イルミナ社が「超並列シーケンシング」と呼ぶ技術をより効果的なものにしている。伸長するDNA鎖の中に組み込まれる1塩基を検出する技術によるものだ。
 同社のシーケンシング技術は、単に製品として提供されているだけでなく、生物学者やバイオテクノロジー研究者が使う多くのシステムや技術の実際の標準的な構成要素となっている。ホン氏によると、研究者は44時間の稼働で60億塩基(1日あたり33億塩基に相当)をシークエンスでき、同社のNovaSeqテクノロジーの一部であるフローセル1つに最大100億クラスタを格納できる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/12/046-047_ft_dna_sequencing.pdf