脳の解明に貢献するファイバフォトメトリの進展

ジャスティン・マーフィー

光ファイバフォトメトリは従来の脳イメージング技術に比べ、脳の内部構造をよりよく把握できるようになっている。しかし、これは始まりに過ぎず、この手法の改良は続いている。

脳の複雑性を真に完全に理解することは、いまだに困難である。その謎を解きほぐすことは、アルツハイマー病や認知症、てんかん、多発性硬化症などの神経疾患の理解し、より効果的に治療していつかは完治できるようになる鍵である。
 MRIやCTスキャンといった非侵襲的なイメージング技術が長らく利用され、脳内部を見ることができる。しかし、光ファイバ、特にファイバフォトメトリを用いる方法が有望視されている。
 ファイバフォトメトリは、神経回路を研究するための光イメージング技術である。2005年に独ルートヴィヒ・マクシミリアン大ミュンヘン(LudwigMaximilian University of Munich)のチームが、安静時の新生児マウスの皮質(大脳の外層)のカルシウムイオン(Ca2+)波を記録する方法として開発された(1)。脳に光ファイバを植え込み、脳の異なる領域内の特定の細胞のタイプから、ニューロンの集団レベルでCa2+活性を記録する。脳内では、シナプスの活動や記憶形成などの制御に、カルシウム活性が中心的な役割を果たしている。
 遺伝的にコードされたカルシウムインジケータを組み合わせ、ファイバフォトメトリによって神経活性をリアルタイムにモニタリングできるようになる。
 中国の華中科技大(Huazhong University of Science and Technology)の博士候補生であるローナン・ファン氏(Ruonan Fan)は、「ファイバフォトメトリは、自由に行動する動物の細胞のタイプ特異的に細胞集団の活性を簡便かつ安定的に記録できるというユニークな特徴がある」と話す。同氏は、同大でリン・フー氏(Ling Fu)が率いる研究室で研究をしている。フー氏は武漢光電国家実験室(Wuhan National Laboratory for Optoelectronics)の副所長で、ブリトン・チャンス生物医学フォトニクスセンター(Britton Chance Center for Biomedical Photonics)で主任研究員を務めている。

成長するアドバンテージ

フォトメトリは、時間分解能が低いという大きな課題がある。しかしながら、一光子顕微鏡や二光子顕微鏡といった他のカルシウムイメージング技術よりも好ましい方法であることに変わりはない。光ファイバは植え込むのが簡単で重量も軽いため、対象が自由に動くことができて自然な行動をとれることが、この技術の重要な点である。ファイバフォトメトリは電気的な干渉に強くもあるため、データ収集の効率が高い。長期的な神経モニタリングに適していることが実証されている。
 ファン氏は、2015年にフー氏のグループが開発した拡張可能なマルチチャンネルのファイバフォトメトリシステムが、動物のさまざまな脳領域の間、または異なる動物間でも神経活動を同時にモニタリングできるようになったこと(2)を引き合いに出し、「ファイバフォトメトリは神経科学で広く使われている光学的手法となっている」と話す。
 フー氏の研究室が主導した別の研究では、2019年に軸索末端特異的なマルチチャンネルファイバフォトメトリを開発した(3)。軸索は、末端にあるシナプスを介して、あるニューロンから別のニューロンに情報を伝えると、研究グループは説明する。「自由に行動する動物において軸索末端から記録することは、動物の行動中の情報処理を理解するために必要なステップである」。
 現在、フー氏のグループが主導する進行中の研究(今年5月に初めて出版された)は、従来の技術を発展させ、さらなるアドバンテージをもたらしている(4)。
 ファン氏は、「我々は、互換性と柔軟性のある全ファイバ伝送フォトメトリを開発した」と話す。「自由に動く動物で、光遺伝学による操作と、神経活動と神経伝達物質放出のマルチカラー記録を同時に達成できた」。
 研究チームは、動物の行動中に、細胞タイプ特異性と正確な時空間分解能をもって神経活動を操作してリアルタイムにモニタリングすることを検討している。ファン氏は、「生体内の神経回路における機能的結合性、情報伝達、生理的機能を探索するための基盤技術である」。
 新しい全ファイバ伝送フォトメトリシステムは、多分岐光ファイババンドルがベースになっている(図1)。これにより、自由に動いている動物において、光遺伝学による操作と神経のCa2+(または神経伝達物質のシグナル)のマルチカラー記録を同時に行うことができる。
 ファン氏は、「現在のファイバフォトメトリシステムを効果的に補うものだ」と述べる。

図1

図1 マルチチャンネルのファイバフォトメトリシステムの構成。488nmレーザからの光ビームが対物レンズによってすべてのマルチモードファイバに同時に集約される。その後、蛍光は同じ光ファイバに集約され、sCMOSカメラが検出する(a)。ファイバの末端には、2チャンネルモード用のsCMOSカメラ(b)と4チャンネルモード用のsCMOSカメラ(c)が設置されている。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/12/042-045_ft_neuroscience.pdf