アト秒極紫外レーザには高精度の多層膜ミラーが必要

オリビア・ウィーラー、アレクサンダー・グッゲンモス

極端紫外線(EUV)レーザのアト秒光学系は、中心波長/エネルギー、スペクトル形状、スペクトル位相、パルス幅(パルス持続時間)を最大限に制御できるように設計する必要がある。

過去数十年間、アト秒(asec)パルス幅のレーザパルスが開発されている。これまでのフェムト秒の時間スケールのレーザシステムでは実現できなかった電子ダイナミクス(電子運動状態の解析)への道が開かれた。
 2001年にエム・ヘンチェル氏(M.Hentschel)らによって最初に生成されたレーザパレスはasecパルス(1 asec=10-18sec)で、電子の運動などの最も基礎となる科学的な解析プロセスが実現可能になる(1)。アト秒パルスの長さの目安は、1アト秒を1秒とすると、1秒は宇宙年齢に相当する(図1)(2)。
 現在、最短のレーザパルスは100アト秒以下(2017年時点で43アト秒)で、これは水素内の電子の基底状態の軌道周期に匹敵する(3)。すべての超高速レーザはパルス幅の短さを特徴とし、アト秒レーザが超高速レーザのパルス幅の下限を押し上げている。電子局在、崩壊過程のダイナミクス、強磁界の効果などが観測されたが、アト秒科学という新たに確立された分野において、主要な発見のごく一部に過ぎない(4)〜(6)。

図1

図1 アト秒、1秒、宇宙年齢の時間スケールの比較図。アト秒がいかに短い時間であるかを示している。

アト秒レーザパルスの生成

伝搬する超高速レーザパルスを生成するには、十分な帯域幅と適切な中心波長の両方が必要である。スペクトル帯域幅から、フーリエ変換の関係式で決まる最小パルス幅が求められる。原理的には、スペクトル帯域幅が広いほど、短パルスになる。実際には、無限に短いパルス幅のレーザパルスを生成するために、無限に広いスペクトルを生成することはできない。
 また、光周期(レーザパルスの中心波長の周期)によっても、パルス幅が制限される。この光周期は、中心波長を光速で割ると求められる。800nmを中心としたパルスの場合、光周期は約2.67fsである。このことから、800nmを中心とするレーザパルスは、たとえスペクトル帯域幅が十分に広くても、アト秒パルス幅の圧縮に対応できないことがわかる。一方、19nmを中心とするパルスの最小パルス幅は約63アト秒である。このため、アト秒レーザパルスは、一般に電磁スペクトルのEUV(XUVとも呼ばれる)領域にあり、それより低いエネルギー領域(長波長)では生成されない。

アト秒レーザ光源

EUVアト秒パルスの光源としては、自由電子レーザ(FEL)と高次高調波発生(HHG)が最も一般的であり、後者のほうが一般的なレーザ利用者には身近な存在である。HHGによるアト秒生成は、3つのステップからなり、まず、試料(通常は希ガス)を、レーザから供給される強い電界と相互作用させる。印加された電界は、電子波動関数を支配するクーロンポテンシャル(エネルギー)を歪ませ、トンネル効果を用いて試料のイオン化を誘発する。電子はレーザ電界によって親イオンから離れる方向に加速されるが、振動電界が反転すると親イオンの方向に加速される。電子は親イオンと再結合する際に、加速中に得た運動エネルギーを、駆動レーザ周波数の奇数次高調波で光子の形態として放出する(7)。

アト秒極端紫外(EUV)レーザ用光学系

アト秒EUVの活用にあたって、本来、使用される光学部品には非常に厳しい条件が要求される。アト秒パルスのステアリング、集光、整形には、高精度の金属/誘電体多層膜ミラーが一般的に使用される(図2)。アト秒光学系は、中心波長/エネルギー、スペクトル形状、スペクトル位相、パルス幅を最大限に制御できるように設計する必要がある。
 アト秒実験では、十分に同期されたレーザパルスが必要である。コヒーレントEUV /軟X線源は、波長可変性に限界があるため、レーザミラーのようなパルス整形アト秒光学系で対処する必要がある。角度依存性や色分散性のない光学系が望ましい。これらの特性が、時間領域でパルスを広げるためである。こういった要件を満たすには、グレーティングなどの他の要素よりも多層膜ミラーのほうが適している。所望のパルス特性を維持するには、反射面に高精度の多層膜コーティングが必要であり、散乱による光損失を最小限に抑えるには、通常、表面粗さが1Å(10-10m)レベルの超研磨基板が必要である。コーティング層を積層する前に、多層膜ミラーコーティングの振幅と位相の特性の高度なシミュレーションを行い、最適化する。

図2

図2 アト秒レーザビームの操作に使用されるEUVアト秒多層膜ミラー。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/12/010-013_ft_ultrafast_laser_optics.pdf