蛍光X線と計算機ゴーストイメージングを組み合わせ化学マッピングを高速化

サリー・コール・ジョンソン

研究者は蛍光 X線計測と計算機ゴーストマッピングを組み合わせ、レンズを不要とする化学元素マッピングの作成方法を新たに開発した。

イスラエルのバル=イラン大(BarIlan University)の研究グループは、最近、レンズを使わない高解像度の化学元素マッピングのイメージング手法を開発した(1)。この手法は蛍光X線(XRF)と計算機ゴーストイメージングをベースにしており、現在よりも大きな対象物を高解像度で化学マッピングできると期待されている(図1)。
 XRFは、X線源で励起されたサンプルから放出される蛍光を測定し、サンプル内の化学元素を特定する。計算機ゴーストイメージングでは2本のビームを相互に関連づける。1本は試料を直接測定せずにリファレンスとなるようランダムなパターンを符号化したもので、もう1本は試料と相互作用するビームである。
 研究者は、計算機ゴーストイメージング手法に手を加えた。透過される電磁波ではなく放出蛍光を測定するのである。これにより、各化学元素に固有の発光スペクトルから元素を同定できるようになる。

図1

図1 X線計算機ゴースト蛍光実験システムで作業をするイシャイ・クラン氏とオー・セフィ氏(Or Sefi)。(提供:バル=イラン大)

化学マッピング

研究チームのリーダーのシャロン・シュワルツ准教授(Sharon Shwartz)は、「化学マッピングの目的は、検査したサンプル内の元素の空間分布を読み取ることだ」と述べる。「化学マッピングでは、ビームを集光して小さなスポットでサンプルを走査し、サンプル内のすべてのスポットから発光を得るためにレンズを使う。しかし、我々はレンズを使わない。その代わりに、強度分布が一様ではない入力ビームを使う」。
 レンズを使わないために、シュワルツ准教授らは、不均一な厚みのマスクを採用した。これにより、透過率が不均一となり、不均一な強度分布ができる。「重要なのは、サンプルの位置で強度がどのように変化するのか正確に把握することだ」とシュワルツ准教授は言う。「放出される蛍光は、化学元素の局所的な強度と分布に依存する。そして検出器は、その両方に比例する強度を測定する」。
 元素の空間分布を再構築するために、研究者らは異なる強度パターンに対する処理を繰り返す。圧縮センシングという計算手法を用いて、再構築を
高速化した。そして、すべての元素の空間分布を組み合わせ、化学元素マップを作成した(図2)。
 研究グループによると、圧縮センシングと人工知能(AI)アルゴリズムによって測定時間を短縮し、標準的な手法と比較して化学マッピングの処理をより効率よく行うことができるという。
 博士課程の学生であるイシャイ・クラン氏(Yishay Klein)は、「我々の手法では、サンプルに多くのパターンのX線を照射し、それぞれのパターンに対するサンプルの反応を測定する」と述べる。「圧縮センシングやAIを用いることで、既知のパターンと、それに対応する蛍光測定値から、対象物を再構成できる」。
 この手法で鍵を握るのは、必要とされるパターン数が、画像内のピクセル数よりも少ないことであると、クラン氏は言う。つまり、ビームを集光してサンプルをラスター走査する標準的な手法よりも測定時間を大幅に短縮できるということだ。
 画像の再構築では、各化学元素について個別に行われる。サンプルからの蛍光シグナルには、各元素からの輝線が含まれており、元素の指紋として利用できるのである(図3)。
 同氏は、「光子エネルギー分解検出器を用いると、対象物内部の各元素の反応を分離できる。そして圧縮センシングやAIによって、各元素の2次元イメージを再構築できる」と述べる。「最後のステップでは、各元素について得られた画像を1つのカラー画像に合成し、それぞれのカラーが化学成分を表すようになる」。
 空間分解能は、研究者の手法をどう検証するのだろうか。標準的なXRF手法では、「空間分解能は、サンプルに当たる集光ビームの幅にすぎない」とクラン氏は述べる。「X線領域での集光は難しく、分解能は強く制限される。我々の研究では、集光を必要としない。その代わり、X線ビームを空間的に変調するマスクの最小の特徴によって分解能が決まる」。
 この手法をテストするため、研究者は、鉄とコバルトからなる対象物の化学マップを作成した。この圧縮センシングアルゴリズムは、標準的な走査ベースの手法と比較して、走査回数をほぼ10分の1に減らすことができた。
 約40μmの分解能も実証できた。X線リソグラフィーなどの最先端技術を用いることで、より小さな形状を作り出し、分解能をさらに向上できる可能性がある。

図2

図2 計算機ゴーストイメージングと蛍光X線計測を組み合わせることで、高解像度で効率高い方法で化学元素マップを作成する。

図3

図3 研究グループの実験設定による画像再構築の概要。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/09/038-040_bioft_biomedical_optics.pdf