バイオイメージングの性能強化につながる顕微鏡の改変

ジャスティン・マーフィー

コーディッドタイコグラフィは、本質的に定量的な性質を備えてさまざまな測定に対応する、新しい光学機器の実現につながるかもしれない。

ある新しい顕微鏡プロトタイプは、標準的なタイコグラフィを新たな深みへと導き、かつてないほど大きな開口数(Numerical Aperture:NA)と、他の既存機器よりも数ケタ高いイメージングスループットを達成している。
 「これは、本質的に定量的な性質を備えてさまざまな測定に対応する、新しい光学機器を実現するものだ」と、米コネチカット大(UConn)医用生体工学部のUTC准教授を務めるグォアン・ツェン氏(Guoan Zheng)は述べた。
 「コーディッドタイコグラフィ」(coded ptychography)というこの新しい手法は、ツェン氏率いるチームが開発したもので、コンピュータアルゴリズムで大規模なデータセット(物体の位置をずらしながら取得した多数の推論パターンで構成される)を反転させて画像を生成する、顕微鏡イメージングの1つの手法に基づいている。標準的なタイコグラフィ顕微鏡法は、基礎科学と応用科学の両方に適用されるコヒーレント回折イメージング手法だが、現時点では光学顕微鏡法にはそれほど適していない。ACS Photonics誌に公開されたUConnチームの研究論文によると、イメージングスループットが低く、解像度が限られているために、光学顕微鏡法に適用するには不十分だという。
 従来の顕微鏡装置は、対物レンズが大きくて分厚い。また、標準の対物レンズでサンプルを観察する場合は通常、解像度とイメージング視野の間のトレードオフが必要である。
 「このデバイスを開発する動機は、その両方を両立させることにあった。従ってこれにより、高い解像度と非常に広い視野が同時に得られるようになった」とツェン氏は述べた。
 コーディッドタイコグラフィのプロトタイププラットフォームに対して、研究者らは、分厚い対物レンズを極薄の散乱レイヤに置き換えることにより、基本的に独自のイメージングシステムを構築した。これによって、サンプルを無秩序加工された表面を通して変換し、レンズレスで回折データを取得することができた。この表面は、化学エッチングされたミクロンレベルの位相散乱器とプリントされたサブ波長の光強度吸収器で構成されており、「既存のどのタイコグラフィシステムよりも大きな開口数を達成」する。図1は、コーディッドタイコグラフィのプロトタイプの構造を示したものである。イメージセンサのカバーガラスが無秩序加工面に置き換えられている。この加工面によって、大きな角度の回折光が、それよりも小さな複数の検出角にリダイレクトされる。これにより、他の方法では観察できない物体の細部を、ピクセルアレイを使用して取得することができる。
 論文によると、同チームは、現行のレンズレスのタイコグラフィシステムの2倍以上の解像度と開口数を達成したという。「その独特の作製プロセスも、従来のメタ表面とは異なり、光学リソグラフィや電子リソグラフィを利用することなく、費用対効果の高い製造が可能だ」とツェン氏は述べた。
 加工面は、顕微鏡用カバースリップの上に作製される。イメージセンサに取り付けると、加工面がセンサのピクセルアレイに面することになる。この配置によって、外部物体と散乱レイヤが直接触れることが回避される。従来の散乱レンズの安定性とアライメントの問題も解決される。
 ツェン氏は、物理的なものではなくコンピューティング上の対物レンズを使用することにより、「解像度を向上させた並列コーディッドタイコグラフィ手法」を確立したと述べている。研究者らによると、このプロトタイプは「従来のレンズベースの光学系を使用する場合は観察できない、空間的広がりと周波数成分を持つ光学空間を解明することを目的に、設計されている」という。
 レンズベースのシステムには通常、機械的安定性の厳しい要件が課される。ミスアライメントや環境的変化によって、画像の焦点ボケが簡単に生じてしまう。同チームは、この新しいタイコグラフィデバイスにおいて、加工面上の何もない領域を位置トラッキング用に符号化することにより、この問題を克服している。このデバイスは、機械式ステージからのフィードバックなしで動作可能で、開ループの光学取得を実現する。図2は、UConnチームが開発したプロトタイプデバイスである。
 研究者らは、ピクセル読み出しの空間と角度の両方の応答を考慮して、コヒーレント回折イメージングモデルの開発に取り組んでいる。「われわれの低コストのプロトタイプは、開口合成を行うことなく、解像対象上の308nmの線幅を直接解像することができる。有効視野240mm2のギガピクセルの高解像度顕微鏡画像が、15秒で取得できる」とツェン氏は述べた。
 同氏らは、光学プリズム、凸レンズ、細菌コロニーなど、多くの2πラップを伴う、変化が緩やかな3D位相物体を復元できることも実証した。「そうした物体の低周波位相成分は、他の既存のレンズレス手法で取得するのは難しい」と同氏は付け加えた。

図1

図1 コーディッドタイコグラフィ顕微鏡法の構造。イメージセンサのカバーガラスが無秩序加工面に置き換えられている。この加工面を通して標本を変換することで、レンズレスで回折データを取得する。(画像提供:グォアン・ツェン氏)

図2

図2 並列コーディッドタイコグラフィのプロトタイプデバイス。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/09/024-026_ft_advanced_imaging.pdf