産業分野に革新をもたらすフェムト秒レーザ光源

ルイス・メイ

フェムト秒レーザ技術は、自動車、電子機器、製薬などの業界に、新しいレーザ加工の機会をもたらす。

フェムト秒レーザ光源は、出力と制御の両方を提供する能力によって、材料加工に革新をもたらしている。利用可能な出力を最大限に活かして、それを高スループットの加工に転換するには、フェムト秒レーザにガルバノスキャナやポリゴンスキャナといった高速モーションシステムを併用することが必要である。切断、エングレービング、表面処理、マーキング、スクライビングなど、どのような加工においても、加工対象物上の連続レーザパルスの空間的重なりが、最適な加工品質を得るための重要なパラメータである。
 従来の方法では、モーションシステムの加速と減速に起因して、複雑な形状の加工で一貫性が得られなかったり、加工しすぎてしまったりすることが一般的に生じるが、パルスオンデマンド技術では、個々のパルスまたは制御されたパルスバーストを、モーション速度の変化に関係なく、等間隔に正確に配置することができる。一貫した結果を得るための代替手法として、スカイライティングなどを適用することができるが、そうした手法は、かなりのデッドタイムをプロセスにもたらすことにもなるため、全体的な加工速度は低く、サイクルタイムは長くなってしまう。
 一方、フェムト秒レーザ光源はパルス幅が非常に短く、熱がバルク材に伝達するまでに要する時間よりもパルス幅が短ければ、加工領域の周囲への熱拡散を実質的になくすことができる。このプロセスは、コールドアブレーションと一般的に呼ばれている。パルスオンデマンド機能によってユーザーは、一定のパルスエネルギーを維持しつつ、実質的に繰り返し周波数を制御して、材料の熱蓄積を回避することができる。これによって、熱影響部(HAZ)の形成が最小限に抑えられ、さまざまな部品の超高精度のマイクロ/ナノ加工を、高いスループットと再現性で行うことができる。
 英ルキシナ社(Luxinar)が開発したLXRシリーズの超短パルス(USP)レーザは、フェムト秒レーザ光源の1つの例で、炭酸ガス(CO2)レーザ光源ではこれまで対応できなかった、さまざまな業界における新たな市場と用途への参入を可能にするものである。この技術を利用したサンプル加工が、英ハル大(Uni­versity of Hull)の物理数学部で現在実施されている。
 ハル大の研究グループは、レーザと物質の相互作用に幅広く取り組んでおり、金属/プラスチック/複合材のフラット切断、冠動脈ステントなどの医療器具を対象とした金属や生分解性プラスチック材のチューブ切断、高品質ビットマップマーキングなど、さまざまな用途に対するルキシナ社のフェムト秒レーザ技術の効果を調査した。

製薬業界向けの表面下ガラスマーキング

ガラスマーキングは、フェムト秒レーザと従来のCO2レーザの違いが顕著な用途で、どちらのシステムもそれぞれ異なる形で有効である。CO2レーザの波長は、ガラスに強く吸収されるた
め、相互作用全体が表面で発生する。これは、表面マーキングが望ましい一部の用途(ビールグラスのヘッドキーパーなど)においてはメリットだが、表面下にマーキングを行うのは単純に不可能であることを意味する。
 一方、フェムト秒レーザにはこれは当てはまらない。フェムト秒レーザは、ほとんどの光透過材料のマーキングが可能である。ガラスは、そのレーザ波長を透過するが、非線形吸収効果によって焦点に高密度プラズマの形成が可能であるため、それによって光を強く吸収し、材料体積内にマーキングを生成することができる。
 このようにして、LXR 120-1030などの製品は、ガラス表面の0.5mm下にマーキングを行うことができる。マークは、狭間隔のドットを使用して作成され、高さが0.5mm未満の文字が形成される(図 1)。実際、マーキングは肉眼で辛うじて見える程度のものとなる。
 潜在的用途には、医療や製薬業界向けの注射器やバイアルのマーキングがある。これらの用途では、表面下マーキングが特に魅力的である。コードは消えることがなく、摩耗や損傷も生じないためである。

図1

図1 フェムト秒レーザ光源を使用して、高さが 0.5mm未満の文字をガラスの表面下にマーキ
ングすることができる。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/09/008-010_ft_femtosecond_lasers.pdf