医療器具のレーザ加工

ブレナン・デシーザー、マーク・L・ボイル

最近のレーザイノベーションは、医療器具業界において新たな用途を切り拓いている。

レーザは医療器具製造で広く使われており、マーキング、溶接、切断、微細加工など、さまざまな処理に適した、あらゆる種類のレーザが提供されている。処理はそれぞれ非常に特殊なニーズを対象としており、新たな用途が絶えず出現している状態にある。

レーザマーキング:製品情報とトレーサビリティ

レーザマーキングは、トレーサビリティを確保するために、企業ロゴや製品/パーツ情報を器具に恒久的にマーキングするための優れた手段である。レーザマーキングは、ダイレクトパーツマーキング(DPM)加工の一種とみなされており、機器固有識別子(Unique Device Identifier:UDI)マーク、企業ロゴ、器具の使用方法に関する情報やテキスト/グラフィックスを簡単に作成できる柔軟性がある(図 1)。骨ネジ、ペースメーカーのような繊細な電子機器を収容するケース、人工内耳、眼内レンズ、内視鏡器具など、幅広い種類の医療器具や歯科器具に利用されている。
 レーザマーキングに適した複数の産業用レーザ源が存在し、それらは、波長、レーザ媒体、またはパルス幅に基づいて分類される。UV、緑色、ファイバ、CO(炭酸ガス)、超短パルス 2(USP)の各レーザが、その例である。材料属性と、作成するマークの種類や品質によって、最も適切なレーザ源が決まる。
 業界で増加傾向にある特殊なレーザ用途の1つが、ステンレス鋼製の医療器具のマーキングである。そのマークには次のような要件がある。
・濃い黒色で、さまざまな角度から視認できること
・耐食性を備えること
・表面を削らないこと(彫り込みがないこと)
・生体適合性を備えること
・複数回の洗浄工程(オートクレーブ)に耐えられること
 この用途に対しては、USPレーザを使用すると、全体的に最も良い結果が得られ、塩水噴霧、オートクレーブ、酸性洗浄剤による厳しい試験に合格することができる。この種類のマークは、管(カニューレやトロカールなど)のバンディングに使われることが多い。バンディングとは、管の挿入深さがわかるようにグラデーションが付けられた縞模様のことである。

図1 ステンレス鋼上の耐食性を備えた黒色マークの例。(a)はバンディング、(b)はデータマトリックス。

レーザ溶接:複雑なパーツの微細接合

医療器具は、携帯型(または小型)のパーツであることが多く、手術で使用されたり埋め込まれたりする場合が多い。それらのパーツを接合する溶接部は、患者の健康を左右する重要な部分であるために厳格な制御が必要で、再現可能なパルス、小さなスポット径、材料への正確な溶け込みが求められる。
 レーザ微細溶接と呼ばれることの多いこの加工の溶け込み深さと溶接スポット径は、1mm未満となる。微細溶接は、ペースメーカー、手術用メス、内視鏡器具、バッテリーに適用されることが多い。
 パルスNd:YAGレーザ、連続波(CW)ファイバレーザ、ナノ秒ファイバレーザ、準連続波(QCW)ファイバレーザ、高輝度ダイレクトダイオード(HBDD)レーザなど、さまざまなレーザ源が微細溶接に適している。加工要件、製造ニーズ、材料によって、最も適切なレーザ源が決まる。レーザ微細加工は、スポット溶接とシーム溶接の2種類に分類できる(図2)。医療用チューブ、極小スプリングの電気接点、フックアセンブリ、ガイドワイヤ、医療用ハイポチューブのスポット溶接には、精密なエネルギー供給と工具が必要である。生成可能なスポット径は、レーザの種類とビーム品質によって、以下のような違いがある。
・20〜200μm:ファイバレーザ(CW、QCW、ナノ秒)
・200〜1000μm:パルスNd:YAGレーザとHBDDレーザ
 埋め込み型器具のハーメチックシールに用いられるシーム溶接は、パルスNd:YAGレーザまたはCWレーザで行うことができる。どちらのレーザを使用するかはおそらく、形状に関する重要事項や、パーツの熱感度によって決まる。
 パーツはますます複雑になっており、最近の傾向としては、異種材料が接合されることが多い。異種材料は、銅とアルミニウムのような、全く異なる材料の場合と、2つの異なるアルミ合金のような、一見似ている材料の場合がある。一般的に(また従来的にも)、異種金属の混合は、溶接部に脆い金属間化合物が生成される可能性があるため、避けるべきである。しかし、レーザの作用時間を短くして溶接池を最小化することにより、一部の異種金属の接合が可能であることが、新しい研究によって示されている。そのような溶接も、他の任意の溶接と同様に、適合性と目的に対する試験が必要だが、これは、新たな接合と材料の可能性を切り拓いて、医療器具の限界をさらに押し上げる可能性を秘めている。

図2

図2 (a)は医療用スプリングのスポット溶接、(b)は埋め込み型器具のシーム溶接。

レーザ切断:埋め込み型器具と手術用器具

医療機器業界においてレーザ切断は、埋め込み型ステント、内視鏡や関節鏡用の器具、フレキシブルシャフト、針、カテーテル、ハイポチューブなどの管状製品や、クリップ、フレーム、メッシュなどの平らな製品の作成に用いられる場合がほとんどである。これらの器具は、高度な外科処置を可能とし、多くの患者の健康と生活の質を向上させるために不可欠なものである。
 医療器具のレーザ切断には、圧縮アシストガス(通常は酸素、アルゴンまたは窒素)が一般的に用いられる。アシストガスは、パルス幅がマイクロ秒またはナノ秒レベルのファイバレーザか、パルス幅が数百フェムト秒のUSPレーザからのビームと同軸に吹き付けられる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/07/042-044_ilsft_medical_device.pdf