マルチビームによるレーザマーキング:個々の製品のトレーサビリティを実現する

フローレント・ティボー

製品トレーサビリティのためのレーザマーキングは、永続的で、非接触式で、使用する消耗品が少ない、エコフレンドリーな処理である。マルチビーム技術は、個々の製品のトレーサビリティの広範な採用に伴って、新たに出現しているニーズに対応するために、そのスループットを向上させることができる。

顧客エンゲージメント、偽造防止、ブランド保護、トラッキング(追跡)、サプライチェーンに沿ったトレーシングは、業界規模の懸念事項である。個々の製品のトレーサビリティを導入すれば、バリューチェーンを構成するすべての人々にメリットがもたらされる、複数の用途が存在する。食品がどこで生産されたものかが気になる消費者、
公衆衛生を保護するために偽造医薬品と闘う医療機関、製造を移転するために運用効率の最適化を図るメーカーのすべてが、2次元バーコード(1)の素晴らしい情報伝達能力の恩恵を受けることになる。
 グローバル化されてデジタル接続された世界への移行が進み、さらなる制御と透明性が消費者によって求められる中で、個々の製品のトレーサビリティに対する需要は、さまざまな業界分野において、かつてないほど高まっている。データ管理インフラとサービスは現在、広く提供されている状態にあるが(2)、ブランドやメーカー各社にとっての最大の課題は、自社製品をいかに個々に識別するかにある。
 標準的な産業用マーキングソリューションは、精度、スループット、品質のすべてを兼ね備えてはいないため、増加の一途をたどるさまざまな用途の要件を満たすことができない。近距離無線通信(Near Field Communication:NFC)などの無線技術は魅力的だが、大きな規模で実装するにはコストがかかる。特にインク、コーティング剤、溶剤を使用する場合は、マーキングソリューションのエコロジカルフットプリントについても、考察が必要である。
 レーザマーキングは、正しい方向への一歩である。

標準的なレーザマーキング

使用する消耗品が少ない、非接触型のレーザは、ほとんどの梱包材に永続的なマークを直接付けることができる。
 標準的なマーキング用途に対し、3つのレーザ技術が広く利用されている。短波赤外領域(SWIR)で動作する炭酸ガス(CO2)レーザ、近赤外領域(NIR)で動作するファイバレーザ、そして、可視光またはUV領域で動作する固体レーザである。レーザ波長は、対象材料と、マーキング速度に応じた出力によって決まる。レーザに、ガルバノスキャンシステム(スキャナ)を組み合わせることによって、レーザマーカーが構成される。
 レーザ業界において、スループットは古くから、レーザビームの移動速度と等価である。それは、速く書くために速く鉛筆を動かすことに似ている。スループットは高いほうが必ず好都合で、レーザ業界はそれを実現するために、レーザ出力を上げ、パルス繰り返し周波数を上げて、スキャンミラーを高速にした。しかし現在、コストと複雑さの両方の観点から、さらに速度を上げるためにこれ以上投資することが、多くのユーザーにとって難しいという、投資の限界に到達している。
 現在、標準のレーザマーキングシステムは、次々に登場する幅広い種類の新しいユースケースによって深刻な課題を突き付けられており、以下に挙げるさまざまな理由に基づき、十分なスループットを提供できない状態にある。マーキングが小さすぎる。3mm未満になると、レーザマーカーは非効率な領域で動作することになる。ミラーは絶えず慣性に逆らって、非常に小さな距離を行ったり来たりして動くことになるためである。対象物の動きが速すぎる。移動物体に対するレーザマーキングは、「マーキングオンザフライ」(MOFT)と呼ばれる。これには、スキャナを駆動するための高額な電子部品が必要で、それによって、マーキング中に物体の線形動作を補償する必要がある。MOTFでは、最大ライン速度が毎分約100mにも達し、マーキング品質は低下する場合が多い。物質が加工困難な表面特性を備えている。ポリマーやガラスなどの物質は、高いスループットでのレーザマーキングが難しいことでよく知られている。ポリマーは、焼けなどの悪影響を避けるために低い出力を使用しなければならない可能性がある。ガラスは、マーキングしきい値が非常に高く、品質問題につながる微小亀裂が生じる傾向にある。
 現行のパラダイムでは限界が見えている。パラダイムシフトを検討するか、少なくとも突破口を探さなければならない。

画期的なイノベーション:マルチビームレーザマーキング

グーテンベルク(Gutenberg)は15世紀に、印刷機を発明した。1冊の聖書を印刷するのに3年を要し、180冊が印刷された。それによって、欧州全域で情報が広く伝達されるようになり、教育は急速に広範囲に拡大していった。それはやがて、啓蒙時代(Siècledes Lumières:Age of Enlightenment)へとつながった。
 マルチビームレーザマーキングの概念はそれに似ている。「鉛筆」に相当するレーザビームが、「印刷」を行うビームレットのアレイに置き換えられる(図1)。数十本のビームレットによって物体へのマーキングを同時に行うことにより、スループットは劇的に向上する。ただしここでは、ビームレットは動的に生成されて、ソフトウエアによって個別に制御されるため、この印刷機はデジタルである。
 このシステムの中心にあるのは、液晶オンシリコン型空間光変調器(LCOS-SLM)と呼ばれる電気光学部品である。これは、レーザビームを反射するミラーとして使われる、特殊な液晶ディスプレイ(LCD)である。これに光を当てると、各ピクセルが電子的に制御されて、「位相」と呼ばれる、目には見えない光の属性が局所的に変調される。この位相変調は、仮想的なホログラムのようなもので、集光レンズの焦点において光強度のパターンを生成する。

図1

図1 レーザビーム(左)は、個々のビームレットで構成されるビームパターン(右)に変換される。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/07/034-037_ilsjft_laser_marking.pdf