疼痛緩和のためのレーザ治療 —— 現状と今後のトレンド

アントニオ・ラスパ

慢性痛を治療するための非侵襲的なレーザ機器に対する需要の高まりが市場の力強い成長を促し、革新的な技術開発を後押ししている。

組織の切断や焼灼、腫瘍の破壊を目的とした高出力外科用レーザとは異なり、低出力レーザ治療(LLLT)は光が照射された身体部分の自然治癒メカニズムを刺激することで効果を発揮する非侵襲的治療法である。LLLTでは、生体組織は光を吸収し、一酸化窒素(NO)を放出する。NOは鍵となるシグナル分子であり、血流を促してリンパ液の還流量を増加させる。これにより、炎症プロセスを抑制して腫れを抑え、周辺組織の治癒を刺激する。この光は、波長600〜950nmの赤及び近赤外線(near-IR)スペクトルである。ほとんど熱が発生しないため、冷光と呼ばれることもある。この低エネルギーレーザは、50〜500mWの出力で1平方センチメートルあたり数ジュールという治療エネルギーにより、温度上昇は0.1〜0.5℃と最小にとどめている。このレーザは0.5〜2.0cm2を透過し、0.3〜5cm2の表面治療面積を持つ。
 より深い透過性と広い表面治療面積を必要とする治療では、高強度レーザ治療(HITL)が求められることも多い。HITLは、1波長あたり5〜10Wの高出力レーザを使用して最大10cm2まで透過し、表面治療面積は70〜80cm2に及ぶ。しかし、LLLTとHITLの作用機序は同じであるため、両者ともに痛みを伴わない非侵襲的な施術として使われ、副作用もほとんどない。さらに重要なことは、副作用があり得る鎮痛薬の使用を減らし、多くの場合には単に痛みを緩和するだけでなく、炎症や痛みの原因も治癒できることである。

レーザ治療の適応となる病態
疼痛緩和にためのレーザ治療に関する臨床試験が米国や欧州全域で行われ、現在では以下の病態に関連した疼痛及び炎症緩和を目的に、FDAや英国、EUで承認されたレーザベースの機器が幅広く存在する。「骨関節疾患」変形性関節症や一般的な関節痛など、主に高齢者集団に影響を与える一群の病態。生活の質に大きな影響を与える。ここでの目的は、関節包の炎症抑制、疼痛症状の緩和、機能障害の軽減(筋肉への作用)、関節周囲の浮腫の軽減、生活の質の水準維持への貢献、薬物療法による疼痛緩和のコントロールである。「神経筋障害」特に若く活発な人々に影響を与える疾患で、しばしば神経疲労や筋疲労を伴ったり、スポーツ障害に起因したりする。脊椎領域の腰椎や頚椎に影響を及ぼす神経筋疾患も含まれ、非常に一般的である。患者の生活の質や仕事の能力を損なうほど繰り返し生じる。レーザ治療は、筋弛緩と微小循環の改善を介して、痛みを軽減するために使用される。「腱鞘炎」腱や関連領域に影響を及ぼす痛みをまとめてグループ化したもの。短い回復時間とハイパフォーマンスへの素早い切り替えを必要とするスポーツ選手に多く見られる。スポーツ外傷学の分野では、レーザ治療の抗炎症作用、抗浮腫作用、鎮痛作用により、疼痛症状や局所的な腫れを解消し、治癒を補助して競技への復帰を早める。「浮腫・血腫」浮腫はリンパ系、血腫は循環系の病態に関連する。浮腫は、間質腔と毛細血管の間にあるフィルタシステムの不均衡の結果である。血腫は、血管外の血液の異常な集まりであり、静脈壁や動脈壁または毛細血管壁の損傷後に生じる。レーザ治療は、微小循環とリンパ液の還流を促す作用があり、外傷に伴うことが多いこれらの症状の治療に大きく貢献できる。「組織損傷」この分野では、レーザ治療は組織の治癒と機能回復を促進する。組織レベル(細胞外マトリクスのリモデリング、炎症プロセスの調節、筋形成の誘導など)と、細胞レベル(分化プロセスの誘導、成長促成物質を含む物質の放出など)の両方で起きる特定の生物学的メカニズムがある。

技術
レーザ治療デバイスのコア技術はダイオードレーザに基づいている。比較的シンプルなモノリシック半導体の構造により、電気エネルギーを直接レーザ光に変換できる。ダイオードレーザは他にはない出力や波長の拡張性もあり、幅広い医療用途に利用されている(図1)。
 半導体組成を変えることで、出力波長を青、緑、赤、近・中赤外線に至る波長を選択でき、必要な出力を得ることができる。こうして、医学的に興味深い波長を作成できる。出力波長に幅広い選択肢があるため、特定の目的のニーズに合致するようレーザシステムを調節できる。たとえば、血液凝固を最大化する、コラーゲンを引き締める、組織焼灼を最大化する、軟組織への透過深度を最大化するか表面治療にとどめる、標的細胞を破裂させる、などがある。すべての用途に対して最高の選択性、つまり不要な副作用を最小化しつつ最大効果をもたらすような最適な波長が1つ以上ある。

図1

図1 レーザ治療デバイスのコア技術はダイオードレーザに基づいている。他にはない出力や波長の拡張性があり、幅広い医療用途に利用されている。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/07/028-030_bioft_laser_therapy.pdf