高強度レーザプラズマ物理学新しい世界を開く

日本と台湾の研究グループが、先頃、日本の関西光科学研究所(KPSI)で、世界最薄、最強の材料、グラフェンを超高強度レーザ(J-KAREN)で照射することで直接エネルギーイオン加速を達成した。
 理論の示すところでは、イオン加速を高めるには薄いターゲットが必要である。しかし、極薄ターゲットレジームでイオンを直接加速することは、難しいことで有名である。レーザパルスのメインピークが到達する前に、高強度レーザからの光のノイズ成分がターゲットを破壊するからである。
 「われわれは、高強度レーザを備えたレーザ駆動イオン加速器に取り組んできた。室内の天体物理学実験のために電磁場診断にイオンビームを必要としていた時、同僚の一人が深刻な問題を警告した。比較的厚いターゲットを照射したときのターゲットチャンバーの放射能汚染だ」と大阪大大学院工学研究科の蔵満康浩教授は言う。
 通常、研究者は、レーザとターゲットの相互作用からの放射能を止めるために鉛を使う。この場合、物理学部内で構築された比較的小さなレーザシステムで対処していた。それは、電子加速実験のためにすでに多くの鉛ブロックを使用していた」と同教授は付け加えている。「しかし、フロアは、さらなる重量増には耐えられなかった」。
 ソリューションはグラフェンの形でもたらされた。グラフェンは、図らずも薄い2D材料である。単層グラフェンは透明で、電気伝導性と熱伝導性が高く、軽量であり、レーザ駆動イオン源には理想的である。
 ある日、蔵満教授とウェイイェン・ウーン氏(Wei-Yen Woon)が、幼稚園で娘を待つ列に並んでいた。ウーン氏は、グラフェンを専門にする研究者である。蔵満教授は同氏に質問した。「フリースタンディングの大面積グラフェンを作れるか」。ウーン氏は、「簡単だ。大面積グラフェンターゲット(LSG)サンプルを持ってこよう」と答えた。
 「今日までのところ、グラフェンには運輸、医療、エレクトロニクス、エネルギーなどさまざまなアプリケーションがある」とウーン氏は言う。「われわれは、レーザイオン加速でもう1つの破壊的アプリケーションを実証することができた。ここでは、グラフェンの機能が必要不可欠な役割を担っている」。
 研究者は、光パラメトリックチャープパルス増幅器(OPCPA)及び短焦点距離軸外しパラボリックミラー(OAP)タイトフォーカスビームとともに用いたJ-KAREN超高強度短パルスレーザによりこれを達成した。結果は、強度~1022W/cm2である(図参照)。そのような高強度でエネルギッシュな陽子と炭素イオンを実現したことに研究者は
驚愕した。グラフェンターゲットを照射するプラズマミラーが不要だったのである。プラズマミラーは通常、ノイズ成分除去に必要とされている。

図

図 実験の概略図を示す。高強度 J-KARENレーザで大面積サスペンディッドグラフェンターゲット(LSG)を照射することで、高速イオンが生成される(a)。(b)と(c)は、それぞれラマンスペクトルとグラフェンの顕微鏡図を示している。(d)と(e)は、それぞれ、固体パストラッカーを使うスタックディテクタとトムソンパラボラ分光器(TPS)の略図。また、(g)と( f)は、それぞれTPSとスタックからの典型的なデータを示している。(画像提供・大阪大学蔵満教授)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/07/008-009_wn_intense_lasers.pdf