バイポーラプレート製造のための回折光学素子によるビームシェーピング

ティボー・バウツェ -シェルフ、ダニエル・ライテマイヤー、ナタン・カプラン

回折光学素子(Diffractive Optical Element:DOE)を使用すると、燃料電池自動車用のバイポーラプレートの経済的な量産が可能になる。

自動車メーカーは、電気自動車への非常に急速な市場移行に直面している。この移行には、新しいコンポーネントの搭載が必要で、革新的な製造技術が求められる。
 電気自動車の主要コンポーネントは、エネルギーを貯蔵するバッテリーである。バッテリーに対する給電は、外部電源によって行うか、電気エネルギーを生成するデバイスを使用して行うことができる。自動車そのものの中で電力を生成するための有望な手段が、燃料電池技術の利用である。燃料電池は、水素と酸素を使用して電流を生成するとともに、副産物として熱と水を生成する。各燃料電池は、数百枚ものバイポーラプレートで構成されている。バイポーラプレートは、膜電極接合体(Mem­brane Electrode Assembly:MEA)を分離し、冷却液用の流路を含む。バイポーラプレートそのものは、互いに溶接された2枚の金属板からなり、金属板の厚さはそれぞれ70〜100μmである。
 この溶接に対する要件は明らかである。冷却液の流路は、ヘリウムが漏れ出さないほど密閉されている必要がある一方で、流れ場の接合部の電気抵抗は低くなければならない。このような薄い材料を欠陥なく溶接するには、シングルモードレーザと適切な溶接光学系を使用して、非常に小さなレーザスポットを加工対象物に集光する必要がある。適切なプロセスパラメータはよく知られており、現行の用途に対しては何の問題も存在しない。しかし、将来のニーズに合わせるには、かなりの変更が必要になる。
 1枚のバイポーラプレートのレーザ溶接シームは、1.5m以上にも及ぶ可能性がある。燃料電池に200枚のバイポーラプレートが含まれており、燃料電池の年間生産個数を100万個とすると、1つの生産ラインで生成しなければならないシームの長さは、年間30万kmにも及ぶことになる。この数値は、自動車業界における従来のレーザ溶接用途と比べて数ケタ大きく、バイポーラプレートの製造の主要な課題につながるものである。つまり、溶接速度を上げて補助加工時間を短縮することによって、生産能力を最大化するという課題である。

溶接欠陥の解消

リモートレーザ溶接は、2Dまたは3D走査システムを使用して、所定の角度でレーザ光を回折するミラーに基づいている。毎分100mを大きく上回る処理速度が可能だが、溶接プロセスの安定性に関する問題が生じる。溶接速度が毎分45〜50mを超えると、許容できない欠陥がシームに含まれるようになるため、走査光学系を動かしたり、レーザ出力を最大限に利用したりすることはできない。独ブラックバード・ロボタージステーメ社(Blackbird Robotersysteme)と、その関連企業である独スキャンラボ社(Scanlab)及びイスラエルのHolo/Or社は、この既存の欠点を把握して、適切な解決策を考案することにした。
 金属箔を高速で溶接する際の最も深刻な溶接欠陥は、ハンピングである。溶融材料が溶融池の後方に放出されて、溶接シームの凝固材料に当たる現象である。液相の材料は、表面に沿って均等に分布される代わりに、材料そのものの表面張力によって球状に蓄積し、シームに沿って明らかなハンプ(こぶ)が形成される。表面が濡れない原因は、液体と固体母材の温度差にある。母材表面が一定の温度を上回ると、溶融材料で表面を濡らすことができ、ハンプの生成を防ぐことができる。
 3社は、有限要素法(Finite Element Method:FEM)によってハンピングの発生と防止をシミュレーションする科学的手法を選択した。レーザ出力とビーム特性、加工対象物の特性、溶接速度と熱伝導特性など、さまざまなパラメータを入力した。まず、ハンピングの形成を確認した。続いて、溶融池の後方端の補助熱源に対して、さまざまなビーム特性を評価した。最終的に、ハンピングを完全に排除する温度領域につながるビームパラメータを検出した。注目すべきパラメータは、主要なレーザスポットまでの距離と、必要なレーザ出力であると特定された。
 2020年に開発された「Holo/Or Flexishaper」には、レーザ光の中心スポットと同心リングを生成する2つの回折光学素子(DOE)が含まれている。2つのDOEの間の相対的な回転角度を調整することにより、コアとリングの間の空間出力分布を自由に調整することができる(図 1)。リング径などの属性は、DOEの設計によってあらかじめ定められる。
 FEMと、走査ヘッドとDOEの両方を組み合わせた全体構成の光学シミュレーションによって得た専門知識を適用して、2つのDOEの仕様をプロセスに基づいて定義することにより、このプロセスをシミュレーション環境から実環境に移行した。DOEモジュールは、光学倍率1:1.93の2Dスキャナである「intelliSCAN FT」に搭載されている。米IPGフォトニクス社(IPG Photonics)のモード径14μmのシングルモードレーザを使用し、中心レーザスポットは27μmとなった。厚さ0.1mmのステンレス鋼箔を、バイポーラプレートの代わりとなる経済的な加工対象物として使用し、ギャップなしの重ね合わせ接合を行った。

図1

図1 回折光学素子(DOE)プレートの互いに対する相対的な回転角度による、強度分布の変化。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/05/038-040_ilsft_remote_laser_welding.pdf