急速に進展するバイオイメージング

ジャスティン・マーフィー

「ベビーブーム」世代の高齢化や、COVID-19を含む疾患やウイルスの増加により、強力でさらに効果的なバイオイメージング技能・技術が必要とされているのは明らかである。

医学・生物学的な診断技術やシステムが急速に進歩している。バイオイメージングは、その中でも最前線にある。この技術は、「多くの新しいブレークスルーをもたらす診断の柱」になるかもしれないと言う専門家もいる。
 グローバルマーケットの状況も、それを支持している。バイオイメージング分野は、2020年に560億ドル以上の売上を記録している。アイルランドのリサーチ&マーケット社(Research & Markets)のアナリストは、現在から2026年の間に、この市場は控えめに見ても毎年約10%の複合年間成長率(CAGR)で着実に成長するだろうと予測している。このような成長の背景には、「慢性疾患の有病率の増加」と「ベビーブーム」世代の高齢化に伴う高齢者人口の増加がある。このため、疾病診断のためのより高度で効率的なバイオイメージング技術が必要とされている。また、気候変動対策の推進として、環境モニタリングを目的とした化学物質や毒物、微生物素材を分析するためにバイオイメージングが使用されていることも、この市場の成長に一役買っている。
 COVID-19のパンデミックもまた、バイオイメージング市場に直接的な影響を与えている。世界中の研究者が、このウイルスと変異株の研究を続け、最終的にはワクチンやその他の効果的な治療法を開発・強化しようとしているからである。

技術の進展

研究者は、バイオイメージング技術を最大限に活用して発展させるために新しい方法を発見している。それには、より効率的で感度の高いシステムから、より効果的な発展も含まれている。
 独ヘルツホルムセンター・ミュンヘン(Helmholtz Zentrum München)の生物学・医学イメージング研究所(Institute of Biological and Medical Imaging:IBMI)が率いるチームは、光音響法を含むバイオイメージングの研究を長年行っている。光音響バイオイメージングは、「光によって発生する超音波信号を読み出すことに依存する」方法であり、高い透過深度と分解能、そして広視野をすべて実現できる。
 光音響法は、遺伝子にコードされたレポーターやセンサなどのツールを利用して効率を上げる。また、可逆的な光スイッチタンパク質にも依存する。しかし、従来、この2つは共存していなかった。これらのタンパク質は、「ナノスケールまたは生きた動物組織の中で、特定の分析物の分布を測定するセンサとして、まだ使われていなかった」のである。今回、『Nature Biotechnology』誌に掲載された研究の中で、IBMIのチームは、これを克服する方法を発見した。遺伝的にコードされたカルシウムインジケータの第5世代(GCaMP5G)をベースに、光スイッチカルシウムイオンセンサを開発したのである(図1)。このセンサは405nmと488nmの光でスイッチし、分子メカニズムを構造レベルで描写できる(1)。
 研究者は次のように述べる。「光でスイッチできるシグナルは、ラベルを点滅させることで、他のシグナルの強いバックグラウンドに対して、少数の細胞を可視化できる。特に免疫系では、多くの生命現象が少数の細胞に依存するため、生きた生体内で少数の細胞を可視化できることは重要だ」。
 IBMIのチームは最終的に、「生体内でラベリングした単一細胞を追跡して、その機能を可視化できる」ようにして、免疫系や腫瘍発生などの分野をより深く理解できることを目指している。
 中国の北京国立分子科学研究所( Beijing National Laboratory forMolecular Sciences)の研究者は、バイオイメージングにおける蛍光の利用を推進している。近赤外(near-IR)領域である700〜1400nmに発光波長を持つ蛍光色素によって、試料の奥深くから組織のイメージングが可能となる。1000〜1700nmのnear-IR-II領域の色素もバイオイメージングを促進できるものの、輝度が低いという欠点がある。
 今回、北京のチームは、near-IR-IIで強く蛍光を発する新規色素を開発した。この新しいキサンテン系色素ファミリーは、「1210nmの蛍光発光と高い輝度を持ち、最高のパフォーマンスを発揮する」ことが明らかになった。
 『Journal of the American Chemical Society』誌に掲載されたこの研究は、マウスの血液循環系で実証された(2)。色素が注入された後、体内に行き渡るにつれてマウスの循環系が発光することが観察された。「この色素は十分に明るいため、5msという短い露光時間で鮮明な画像を得ることができた」と研究チームは述べる。さらに血流速度を計算でき、「空間的に近い大腿動脈と大腿静脈を区別できるほど優れた空間分解能」を達成できた。
 研究者は、「高い空間・時間分解能を持つバイオイメージングに有効なツール」であると話す。
 沖縄科学技術大学院大(OIST)の研究者は九州大のチームとともに、バイオイメージングの進歩に向けたステップも踏んでいる。バイオイメージングシステムの高い性能を確保するために必要とされる無機結晶ではなく、有機材料を用いて暗闇で光らせることを可能にした。現在使われている無機系の方法では、入手が容易ではない希土類金属の導入や、1800℉を超える製造温度が必要である。

図1

図1 スイッチセンサのモデル。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/05/035-037_bioft_bioimaging.pdf