船舶の目:海洋におけるレーザ検出
レーザ検出技術は、船舶の安全性と効率の向上を支援する上で有意義な役割を果たしている。
欧州海上保安機関(European Maritime Security Agency:EMSA)は2014〜2019年の間に、28の欧州旗を掲げた2万1392隻の商船が関与する1万9416
件の海難事故を記録し、それらの事故の負傷者は6210人、死者は496人にのぼる。これらの事故の半数は、内水または湾港水域内で発生している。米国海域内、または、世界各地の米国旗を掲げた船舶については、同期間に1万9586件の事故が、米運輸省(Department of Transportation)によって報告されている。事故に関与した船舶は2万5790隻で、負傷者は689人、死者は194人、物的損害総額は70億2200万ドルにのぼる。
毎年、世界の保険請求額の40%が船舶事故に関連しており、1件あたりの平均請求額は43万ドルである。事故には、船舶同士の衝突や、岸壁、プラットフォーム、紛失コンテナや浮氷塊などの半没水物体との衝突などがある。国家沿岸警備隊がそれ以上に懸念するのは、部分的に没水している場合もある、より小さな船舶による、麻薬密輸や密入国である。
大西洋の両岸において、レーザは船舶の安全を強化するための主要要素として認識されている。欧州連合(EU)は、現行の一連の船舶センサでは「困難な海洋層を観測できない」として、SMARTER(Surveillance of MARi Time surroundings through lasER)技術プロジェクトを2016年に立ち上げた。
2016年から2019年には、英国ロンドンのグローバルマリタイムサービシズ社(G.M.S. Global Maritime Services)を中心とするコンソーシアムが、250万ユーロの資金を受けて、新しい海洋センサをレーザ距離測定器から開発する作業に取り組んだ。
新しい海洋センサの設計
船舶センサは、監視員や橋警備員を上回る能力で、以下を行う必要がある。
・周辺海洋を360°の範囲とより長い距離にわたって、リアルタイムかつ連続的に知覚する
・海洋層に関する3D/4Dの連続的な情報を、便利かつ判読可能な形で提供する
・すべての環境、天候、交通条件下で、昼夜を問わず監視を行う
・正確なデータの保存と再現を可能にして、後で確認できるようにする
新しく導入するセンサは、レーダー、音響測深機、航法、サイドソナーからなる現行の一連のセンサを上回るか、それを補完する能力を備える必要もある。また、国際海事機関(International Maritime Organization:IMO)と船級協会(ship classification society)が、新しいセンサの安全性を承認する必要がある。
船舶に搭載されるライダ(light detection and ranging:LiDAR、光検出と測距)は、ToF(Time of Flight)手法の適用によって、高精度な科学測定や港湾における距離測定を行うと、広く認識されていた。一部の船舶において、海上で標的を検出するライダを、CCDカメラによるその後の解析と識別に組み合わせることの有効性が、既に確認されている。しかし、受信器へと後方散乱するときに、距離測定器のパルスには、標的の性質と動作に関する情報も含まれており、全体形状を考察する際には、その情報の抽出が、さらに詳しい識別に役立つ。過去に取得した信号のアーカイブを使用して、全体形状の解析と比較を行うことにより、検出と特性評価を行うことができる。標的候補のデータベースは、さまざまな視角から事前に作成されているか、機械学習によって漸進的に構築することができる。
信号取得の効率は、受信望遠鏡の口径、検出器の面積と技術、選択されたレーザ帯域幅に依存する。この手法を実装することにより、船員に対するレーダーに勝る大きなメリットが期待できる。つまり、より短い光波長によって、海面に漂う物体やほとんど海面下に没した状態の物体(漂流物、小型ボート、紛失コンテナ、浮氷塊)など、より小さな領域の細部を識別することができる。さらに重要なのは、この新しいセンサが、港湾や港湾までのアクセス航路など、混雑したエリアを通過する際にレーダーの測定値が乱される問題に対する解決策になることである。距離測定器は能動的に動作するため、識別の可否は、標的の可視性(夜間航海灯など)に依存しない。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/05/024-026_ft_laser_detection.pdf