5G以降のワイヤレス光ネットワーク

ジェフ・フェクト

5Gワイヤレスネットワークが世界中に広がる中、標準規格策定者は、広い無線帯域幅による短距離伝送の手段として、光通信に目を向けている。

ワイヤレス通信は、休息することのない分野である。グローバルな5Gネットワークがまだ展開途上にある中、開発者らは既に、次世代の6Gネットワークでさらに広い帯域幅を提供して遅延を改善する方法を計画している。
 計画者らによると、6Gは次なる目玉となるもので、さまざまな「モノ」へのデータリンクや、ホログラフィックの高解像度での拡張現実(AR)といった、新しいワイヤレスサービスを提供することになるという。

ワイヤレスネットワークの各世代

モバイル通信規格は、複数の世代を経ており、どの世代も技術における重要なステップだった。最初に広く使用された携帯電話は、セルラーアナログシステムで、現在は1G(第1世代)と呼ばれるものである。1991年に登場した2Gのデジタルセルラーネットワークは、まずはテキスト機能を提供した後に、低解像度の画像やマルチメディアに対
応した。1998年には3GPP(3rd Generation Partnership Project)が設立された。急速に成長していたインターネットを介してデータを伝送するように設計された、3Gセルラー携帯電話の規格を策定するためである。3Gはスマートフォンの扉を開き、最初に登場したのが、ビジネスユーザー向けに設計された「Blackberry」だった。業界ではその後、10年ごとに新しい世代が導入されている。4Gでは、スマートフォンが万人に提供され、2020年頃に登場した5Gでは、帯域幅がさらに拡大され、6Gは、2030年の展開を目指して開発が進められている。
 独ドレスデン工科大(Technical University of Dresden)でモバイル通信システムのVodafone顧問教授を務めるゲルハルト・フェットワイス氏(Gerhard Fettweis)によると、業界では現在、新技術を2つの世代によって導入しているという。1つめの世代でビジネスユーザーに提供した後、2つめの世代でその市場をコンシューマーに拡大し、その後には再び、新世代の技術がビジネス向けに導入される。3Gは、スマートフォンとインターネットをモバイルビジネスユーザーにもたらし、4Gは、それをモバイルコンシューマーへと拡大した。同氏によると、5Gネットワークは、農業から医療に至るまでのあらゆる分野の専門ユーザーを対象に、モノのインターネット
(Internet of Things:IoT)における実際と仮想のオブジェクトに対する、ワイヤレスのリアルタイム制御を提供する、「タッチインターネット」(Tactile Internet)をもたらすという。
 フェットワイス氏はさらに、「6Gでは、リモート制御のロボティックソリューションを万人に提供するためのインフラとなる、Personal Tactile Networkを整備し なければならない。2030年以降は6Gの提供開始とともに、ロボットヘルパーが私たちの生活を支援するという人類の昔ながらの夢が実現することになる」とも述べている。
それは、拡張現実とパーソナルロボットエージェントを含むコンセプトの実現を目指す、広大なビジョンである。その目標を達成するには、莫大な伝送容量と広大な相互接続性を提供して、ほぼゼロ遅延を達成することのできる、新しい技術が必要になる(1)。

物理層の重要性

英クイーンズ大(Queen’s University)のミハイル・マタイオウ教授(Michail Matthaiou)によると、5Gの成功は、マイクロ波帯におけるMassive MIMO(mMIMO:大規模多入力多出力)技術の利用に起因すると考えられるという。最大の懸念は、モバイルネットワークの物理層、すなわち、信号を伝送するハードウエアである。その他の機能は、通信システムの他の層が行う。例えば、音声、映像、またはデータ入力をシステムに取り込み、入力信号を伝送に適した形式に変換し、さまざまなソースからの信号を多重化して、物理層を介して伝送するための単一のデータストリームにする処理である。光学機器は、物理層の一部である。光送信器は、光ファイバ、または自由空間光通信で大気中を伝送する光信号を生成する。アンテナからの無線信号とマイクロ波信号は、大気中をワイヤレスに伝播する。電子送信器は、配線上を短距離だけ流れる電流を生成する。
 光ファイバは、5Gモバイルネットワークの物理層において重要な役割を担う(図1)。まず、グローバルな通信システムとデータセンターの間の高容量のバックボーン伝送を提供する。また、地域の分配ノードと、無線周波数のワイヤレス信号を分配する基地局の間のバックホールも提供する。パッシブ光ネットワークは、5Gネットワークにおいて使用される28GHz帯の無線信号を、小さな「ピコセル」を対象に高周波数信号を分配するローカルアンテナから伝送することができる。

図1

図1 5Gネットワークと、データセンターやグローバルネットワークへのその外部接続における、光ファイバ伝送の利用状態。ワイヤレスシステムの内部において、光ファイバは、中央局やローカルデータセンターを、基地局や、建物やポールに設置された28GHz帯スモールセルに接続している。

6Gに向けて規模を拡大する上での課題

光学機器は、6Gネットワークの目標を達成するためにモバイルネットワークの物理層の規模を拡大するうえで、重要な役割を担う。マタイオウ氏によると、これには3つの主要な技術的進歩が必要だという。すなわち、5Gで使用される28GHz帯から光帯域までの周波数の信号を伝送すること、アンテナシステム用にインテリジェントで再構成可能なサーフェスを開発すること、そして、従来の固定セルラーネットワークをmMIMOに基づくセルフリーのネットワークに置き換えることである。
 6G向けに検討されている3つの主な周波数帯は、30〜300GHzのミリ波帯、300GHz〜3THzのテラヘルツ帯、そして、光帯域である。光帯域には、赤外域(IR)の大部分、可視域の全範囲、紫外域の長波長側が含まれる。大気吸収は、ミリ波帯のほとんどの領域における問題としてよく知られており、ほとんどの大気減衰が、300GHz〜10THzにおいて2〜1万dB/kmである(2)。少なくとも短期的には、この高い減衰によって、ミリ波帯とテラヘルツ帯のほとんどの領域における伝送は、短距離に制限される。枝葉や壁などの障害物によっても、伝送は遮断される可能性がある。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/05/014-017_ft_future_photonics.pdf