次世代のフェムト秒レーザ

フロリアン・エマウリー、アンドレアス・ソス

安定性に非常に優れた新しいフェムト秒レーザは、ギガヘルツオシロスコープ、通信回線、高精度レーダーなど、多種多様なアプリケーションをターゲットにしている。

フェムト秒レーザは、数十年の歳月をかけて進化を遂げ、その期間の大半において、科学研究の主力ツールとして活用されてきた。これらのシステムはほとんどの場合、チタンサファイア(Ti:sapphire)結晶に基づいている。どちらかといえば繊細なデバイスだったが、1980年代から画期的な研究成果の達成にも貢献しており、1999年と2018年にはノーベル賞を受賞している。
 この20年間で、ターンキー操作の産業グレードのシステムが登場している。それらの多くがファイバ技術に基づいており、それによって長時間にわたる安定した動作が実現されているが、まだ制約は存在する。より最近では、モノリシック型の発振器が、スイスのメンヒル・フォトニクス社(Menhir Photonics)によって発表されている。同社は、スイス連邦工科大チューリッヒ校(ETH Zurich)からスピンオフした企業である。同社のモノリシック型発振器は、かつてないほどの安定性と性能を備え、現在は靴箱サイズの筐体で提供されているが、将来的にはマッチ箱かそれ以下のサイズに縮小される可能性を秘めている。そしてこれらのレーザはもう1つ、斬新な性質を備える。通常の郵便サービスでの配送が可能で、その後はターンキーで動作することである。

レーザは「問題を模索中の解決策」?

セオドア・メイマン(Theodore Maiman)のこの言葉は、第1世代のレーザについては正しかったかもしれないが、最新レーザについては間違いなく成立しない。新しいウルトラファーストレーザの実際の強みは、そのレーザパルスの卓越した安定性にある。これらのレーザのアプリケーション関連のタイミングジッタは、タイミング情報を分配する非常に要件の厳しいアプリケーションに不可欠となる、1fsよりもはるかに小さい。例えば、大型望遠鏡を運用していて、異なる望遠鏡からの信号を精密なタイミングで結合して1つの画像を生成しなければならない複数の施設で、これらのレーザが使用されている。レーダーについても、同じことがいえる。レーダーシステムは、従来の商用光ファイバによって分配された、精密なタイミング信号を使用して、異なるソースからの信号を結合することにより、さらに遠く、または、さらに細部を確認することができる。
 粒子加速器は、この精密なタイミング信号を使用して、正確な瞬間にそのシステムをトリガする。ほぼ光の速度(30万km/s)で加速器管の中を循環する粒子を想像してほしい。1フェムト秒の間に、それらの粒子は0.3μm移動する。低ジッタのレーザ信号を、ファイバによって任意の加速器ステージと任意の測定デバイスに分配することが可能で、適切な信号を適切な瞬間に提供することができる。
 ここまでは順調だが、これらはすべてニッチな市場である。もっと大きな野望はないのだろうか。

アナログ/デジタル変換

この60年間を通して、レーザは複数回にわたって技術的な後押しを受けた。最も大きくレーザを後押ししたのは、通信である。この分野において、半導体レーザ、低損失光ファイバ、そして後のエルビウム添加ファイバ増幅器の導入は、2つの影響をもたらした。1つは、インターネットの登場による社会変革だった。2つめは、想像を超えるエレクトロニクス技術とフォトニクス技術が推進されたことである。この巨大市場の需要は、レーザと光学コンポーネントの開発を加速させた。ギガビットやテラビットの通信回線は、その主な成果である。材料加工の分野をけん引してきたキロワットレベルのファイバレーザは、実はこのトレンドの素晴らしい副産物である。
 通信は大きな市場であり、さらに広い帯域幅に対する需要は切迫している。これに応えて、伝送速度はギガヘルツレートを超えるまでに増加している。これはテスト技術において、問題となっている。テスト技術は、エレクトロニクスに基づくためである。タイミングがピコ秒レベルに深く達するようになると、電子テストはコストが高くなるか、単純に不可能になる。1GHz発振の1サイクルは、1000psである。このサイクルを、1サイクルあたり100ポイントの分解能で測定するには、10psの分解能が必要である。この信号を測定するには、検出器を正確な瞬間に起動して一定時間後に停止することを、10psの時間の間に行わなければならない。つまり、検出器の起動と停止の両方の操作を、10psよりもはるかに高い精度で行う必要がある。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/05/010-013_ft_ultrafast_lasers.pdf