感染性病原体を迅速に検出する新型センサ

今回のCOVID-19の感染爆発は、気候変動や絶え間ないグローバル化によって新興感染症のリスクが高まっていること、そしてこれらの感染性病原体を迅速かつ正確に検出する検査法が必要であることを示している。
 この数年間、そうした高感度で柔軟性のある検査プラットフォームを韓国のチームは開発してきた。現在、スピード、感度、堅牢性を向上させ、臨床応用に向けて動き出している(1)。
 このセンサは、特定の標的生物のDNAと結合するように表面が加工されたシリコン・マイクロリング共振器(SMR)の周囲に配置されている。分子がSMRに結合すると有効屈折率が変化し、共振波長が変化する。波長スキャンしたレーザ光源の屈折力の変化を測定することで、共振波長の変化を定量化できる。最新の技術革新では、ボールレンズを用いて入出力結合を最適化し、デバイスの性能を向上させた。

シングルステップ測定

使いやすいプロセスの中で正確な結果を迅速に提供するのが、理想的な臨床検査だ。しかし、迅速性、正確性、簡便性といった要件は相反しており、設計の方向が異なる場合もあるため、開発には厳密さだけではなく革新性も求められる。韓国の延世大学校(Yonsei University)と同国の3機関からなる研究チームは、高感度なSMR検出を基盤としている。
 SMRは、小型で円形ループを形成したシリコン導波路である。その形状と屈折率によって、共振波長が決定する。リング共振器が直線導波路と隣接する場合、直線導波路の外側に広がるエバネッセント場は、リングの共振波長においてエネルギーを伝達する。広帯域の光源においてエネルギー伝達は、直線導波路を伝わるパワースペクトル密度の増減として現れる。実装時には、韓国の研究者は4つのSMRを搭載するデバイスを使用した。1つは温度効果をモニターするために酸化シリコンに埋めたままにし、他の3つは酸素を切り離してエッチングし、革新的な生化学的検出戦略を実行した。
 3つの検出用SMRの表面にDNAフォワードプライマーを結着させ、別のプライマー、酵素、検査サンプルを含む溶液にセンサを浸漬した。センサは38℃に維持され、サンプルDNAがプライマーに結合すれば、SMRに結着しているプライマーの場所からDNAが複製される。SMRの共振モードでのエネルギーの大部分はエバネッセント波である。そのため、導波路内の光と、表面に結合している分子との間に大きな相互作用が生じる。
 研究者は、診断が難しい感染症で、Q熱という重篤な疾患をもたらすコクシエラ・バーネティー感染症患者の臨床サンプルで共振の変化を確認した。共振波長の変化は、感染していない患者とは明らかに異なるものだった。操作時間は30分だった(2)。
 感度とスピードは十分だったが、このセンサは入射ビームのアライメントを慎重に行う必要があり、臨床における有用性は限られた。アライメント不良の感度を下げるため、センサと光をやりとりする光ファイバにボールレンズを追加した。これには、さらに2つの効果があった。まず、直線導波路における入力光の焦点深度を深くしたことである。つまり、ビームはより長い距離でより細くなり、SMRへの照射が最大化された。さらに、センサへの入出力も改善され、シグナル・ノイズ比すなわち検出感度が向上した。
 感度、スピード、堅牢性という要件を満たす設計となった。次は臨床評価である。

リアルワールド検査

センサ配置をアップデートしたものでは、1550nmを中心とした掃引型波長可変レーザから偏波保持ファイバに光を送り、カスタムメイドの直径300μmのボールレンズに入射させる。ボールレンズはSMRセンサの導波路にビームを導き、そこで機能化共振リング3つと非機能化リング1つに近接して伝搬する。透過した光は、ボールレンズとファイバの組み合わせで集光し、光ダイオードで検出される。ボールレンズ2つの組み合わせは、スループットを最大化するために自動的にアライメントされる(図)。

図

図 追加されたボールレンズの組み合わせにより感度が向上し、高感度で柔軟性のある使いやすいセンサがシリコン・マイクロリング共振器の周囲に配置される。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/05/006-007_biown_sensorsbio_imaging.pdf