技術の相乗効果で実現を目指す卵巣がん検出
さまざまな技術を少しずつ改善して新たなアプリケーションが実現するときに、新たな可能性が生まれる。米ウィスコンシン大マディソン校(University of Wisconsin-Madison)、PNPリサーチ社(PNP Research Corporation)、その他の学術・産業パートナーからなる研究チームの最近の研究が、このパターンを体現している。彼らは、人工知能(AI)、自動画像取得、プラズモン信号増強などの技術における発展を統合し、卵巣がんの検出方法の可能性を追求している。
米国がん協会によると、卵巣がんのうち早期に診断できるのはわずか20%程度である(1)。卵巣がんでは、特定のタンパク質であるMUC-16が過剰発現しているが、血清中のMUC-16濃度は疾患と相関しない。今回の新しい研究では、MUC-16の免疫系細胞への結合パターンと卵巣がんの有無の相関性が示された(2)。
3つの問題
MUC-16はムチンファミリーに属する膜貫通型の糖タンパク質で、粘膜表面で感染物質の侵入を防ぐと考えられている分子だ。MUC-16は酵素によって膜から切
り離されるため、高レベルの発現は血清中濃度の上昇につながると考えるのが妥当である。MUC-16は、CA125という名称の繰り返しエピトープがある。一般的な卵巣がんの検出方法では、CA125血清濃度としてこのエピトープを標的にしているが、疾患の進行との相関はあまりない。
ウィスコンシン大マディソン校のチームは、これまでの研究において、CA125が末梢血単核細胞(PBMC)に高レベルで結合することを示してきた。PBMCは、ヒトの免疫系に不可欠な、さまざまな種類の細胞集団である。次のステップは、異なる細胞集団からなるPBMCの種類ごとに対する結合レベルを評価することだった。ここで、3つの問題に直面した。1つ目は、1つのPBMCに結合するMUC-16分子の量はわずかであること。2つ目は、意味のある統計をとるために大量の細胞を用いたサイトメトリーが必要であること。3つ目は、異なる細胞集団を確実に同定する必要があることである。
必要な検出限界に到達するために、彼らは80nmの金ナノ粒子を結合させた抗CA125抗体をサンプルとともにインキュベートした(図)。暗視野照明下では、金ナノ粒子は細胞内のバックグラウンド照明より13倍明るくなっている。以前の研究でチームは、細胞に結合した平均的なMUC-16鎖は3つ以下の金ナノ粒子と結合しやすいことを示している(3)。クラスタは赤方偏移するため、ナノ粒子1つとはスペクトル的に識別できる。これにより、各細胞で金ナノ粒子を数えるだけで済む。実際には、さまざまな不定形の細胞集団の中で細胞の境界を識別するところから始まるという、複数の課題がある。
スクリーニングアッセイでは、人間が個々の細胞境界を識別することは現実的ではないため、AIを利用した。3192個のPBMCの境界を特定し、そのセットを
用いてエリアマッチングモデルの学習、検証、テストを行った。撮影した画像はモデルによって処理された後、人工物や対象外の細胞である16μm2未満または
400μm2以上の細胞を排除するためにスクリーニングを実施した。3つ目の問題である、異なるPBMCを細胞の種類によって分類することは、多重蛍光標識によっ
て解決した。この解決策は、光学システム自体の設計と密接に関連する。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/03/006-007_wn.pdf